メインシナリオ/サイド第1回オープニング

 

 『滅びを望む者たち 第1話』

 

●墓地
 港町の人々が眠る墓地へと、リルダ・サラインは訪れていた。
 港町の歴史は浅く、ここに眠る人も少なかった。洪水が発生する前までは。
 両親と、先代の組合会長である祖父母の墓に花を手向けて。
 それから、奥に在る親戚の墓の前で立ち止まった。
「あなたが生きていたら……」
 そう思わずにはいられない。
 墓に刻まれた名は『ジェイド・アルザラ』。
 文武両道で人望が厚く、期待された次期組合会長だった。そして、リルダの憧れの従兄だった。
 彼があまりにも完璧すぎたから、他の男性に興味を持てなかったのかもしれない。
 従兄妹であり、年も離れている自分とは釣り合わない。そう諦めていたのに。
 彼が伴侶として選んだ女性は、自分と同い年だった。
 その若くて魅力溢れる妻と、幼い娘を残して、彼は事故であっけなくこの世を去ってしまった。
 あれから15年。
 彼も、彼の家族も、ここにはいない。
 この地で、アルザラの血を引く者は、自分だけになってしまった……。
「来ていたか、リルダ。今日はあやつの命日だからな」
 振り向くと、白髪の老人がいた。
 アゼム・インダー。
 領主の館の管理を任されていた人物だ。
 アルザラ家とは血縁関係にあるようだが、リルダは詳しいことは知らない。
 数年前から痴ほうが激しくなり、孫のレイザ・インダーが事実上の当主となっていたはずだが……。
「リルダよ。わしのもとに帰ってこい、わしの子を産むんじゃ!」
 がしっと突然、アゼムがリルダの腕を掴んできた。
「私はあなたの奥さんではありません」
 ため息をつきながら言い、リルダはアゼムの腕を振りほどく。
「わかっておる。妻はとうの昔に自ら命を絶ったわ! わしはわしとお前の子が欲しいんじゃー!」
 どういうわけだかこの爺さん。洪水発生後から、執拗なほどにリルダに言い寄ってくる。
(私を後妻にしたい? 昔は愛人もいたらしいけど……)
 もう子供が望める年齢ではないだろうに。
「忙しいので、出産をしている時間なんてありません」
 付き添いの従者に彼を送り届けるように言うと、リルダは港町へと戻っていった。
 ちなみに、今日はジェイドの命日でもなんでもない。
 勇敢だった彼と彼の家族の姿を思い出し、勇気と希望を奮立たせるために来た。

 

●魔法学校寮
 休日前の夜。
 寮生のプルク・ロアシーノは、自分の部屋に友達を集めて秘密の相談をしていた。
「寮長にお弁当作ってもらってもらおうぜ。洞窟前で弁当食べてから宝探し開始だ!」
「お弁当と、飲み物と、ランタンと、後は何をもっていけばいい?」
「迷わないよーに、目印になるもの持っていった方がいいんじゃない?」
 このあいだの休校日に、山を探索していたプルク達は、岩の裂け目の先に広がる洞窟を発見したのだ。
 その入り口は山道から少し離れた場所にあり、地面から2mくらいのところにあった。
 風の魔法で浮くか、木に登らないと入れない場所にある。
 小さな裂け目なので、大人や太っている子は中に入ることが出来なそうだ。
「役に立ちそうな奴がいたら、連れてこいよ」
「頭の悪い子や、ヘバりそうな子とか、先生に言い付けそうな子に知られたらダメだよ」
 子供たちは約束を交わしたあと、それぞれの部屋に帰っていった。

 

 バート・カスタル    アーリー・オサード
 バート・カスタル    アーリー・オサード

 ●領主の館にて
「ミーザ! その仕事はお昼前に終わらせなさいと言ったはずでしょ。早く戻ってきなさいッ!」
「ご、ごめんなさい。すぐ戻りま……あっ」
 掃除用具を抱えて走り出したメイドが、躓いてよろめいた。
「っと」
 会議を終えて、館から出てきた騎士――バート・カスタルがメイドを掃除用具ごと抱きとめた。
「大丈夫か? 何もあんなに怒鳴らなくてもなー」
「あっ、ありがとうございます。私とろくてっ、失礼いたしました」
 真っ赤になり、ぺこぺこ頭を下げてメイドは礼を言うと、急いで館へと戻っていく。
「あんまり慌てるなよ、また失敗するぞ」
 心配そうに、バートがメイドを見守っていると、
「ああいう子が好みなら、紹介してやってもいいぞ」
 メイドと入れ替わりで館から出てきた男、レイザ・インダーが口元に笑みを浮かべた。
「いやいや、今は彼女作ってる場合じゃないし……。それよりレイザ、実は重大発表がある!」
「なんだ?」
「なんと、警備隊の隊長に就任したんだぜ、俺!」
 この地方の警備を担当していた団の団長は洪水で殉職してしまい、洪水後は公王直属の騎士団団長であったアイザック・マクガヴァンが公国騎士全てを指揮している。
 この度、警備専任の隊を設けることとなり、港町出身であり、長くこの地方の警備を担当していたバートが隊長に推薦されたのだった。
「ようやく地方警備隊の隊長か。遅いくらいじゃないか? ナディアは既に神殿長だし、ラルバは……」
「あいつらより俺の方が若い! ラルバとは家柄も違うし……けど、実力は負けてない」
 若いと言っても、1年しか違わないのだが。
「ところでレイザ、お前どこに行くんだ? 今日休校日だよな」
 レイザはリュックサックを背負い、手には大きなシャベルを持っていた。
「休校日を利用して、有志で温泉プールを造ることにした。水泳の授業は必要不可欠だが、水温が低すぎて池では出来ないからな。温泉を利用して、温水プールを造る……つい
でに、露天風呂も造る」
 海に投げ出された時のために、泳ぎを覚えておく必要があるとか、地魔法で浴槽を作ったり、水魔法で温水を流しいれたり、火と風魔法で温度の調整をしたり、ガスを飛ばし
たりといった、魔法の勉強としても役立つなどと、持論を展開してくレイザだが……。
「絶対プールより、露天風呂が目当てだろ」
 バートは疑いの眼をレイザに向ける。
「だったらなんだ?」
「出来上がったら、俺も入りにいってもいいか?」
「断る。男の裸には興味がない」
 バートに背を向けて、レイザはスタスタと歩いていく。
「てめー、やっぱりなんか如何わしい事考えてるな! 俺も混ぜろ……じゃなくて、初仕事はお前の監視に決定だッ」
 笑いながら、バートはレイザの後を追う。
 実際は、監視をしている余裕などないのだけれど。
 久しぶりの旧友との会話で、沈みゆく心が少し軽くなった。

 

●破滅派
 港町の一角に、犯罪者を収容している倉庫がある。
 水の障壁が徐々に狭くなり、その倉庫の間近まで迫っていたが、他に適した場所はなく移転は後回しになっていた。
 自分達の食糧が不足しているのに、犯罪者に3度の食事を出していることに人々から不満の声も上がっている。
 そんなある日の深夜。
 突如、その倉庫に火災が発生した。
 水魔法による鎮火が試みられたが、優れた術者はほとんど町にはおらず、いても疲労で力を注げる状態ではなく、倉庫はまるごと焼けてしまい何も残らなかった。

 しかし、犯罪者たちは死んではいなかった――。
「私の名前はアーリー・オサード。2年前までは、港町で働く普通の女だったわ」
 倉庫から犯罪者を逃がし、アーリーと名乗る女は犯罪者を山へと導いていく。
「だけれどもう、普通の女を装うのは終わりにする。私は炎を操ることのできる火の魔術師よ。私には、港町を火の海にすることだって、きっとできる」
 彼女は犯罪者を逃がす時に、倉庫を炎で覆いながら、逃げ道の炎だけ消して彼等を外へ誘った。
 魔力の強さは定かではないが、彼女の優れたセンスを犯罪者たちは感じ取っていた。
「人の世界はもう滅んだのよ。これは自然の摂理なの。私は海へ還るの。
 生き延びようと、より苦しみを長引かせようとしている人たちを、私たちが導いてあげましょう」
 行き場を失った犯罪者たちは彼女が放つ火の光を追い、港町から逃れ、存在を忘れられた山小屋へとたどり着いた。
 彼女に賛同する者もいたが、犯罪者の多くは領主に、組合長に、町の人々に復讐心を抱いていた。
 それ故に、この世界の終焉を望んでいた。
 彼等の多くは、洪水後に水の障壁に害をなして捕まった者だった。
「終わりを望む者たちを、迎え入れましょう。力を持ち知恵の無い者は利用しましょう」
 アーリーは冷たさの感じる笑みを浮かべながら、火の球を生み出して部屋を暖めた。

 彼等の大切な人は、洪水前に船に乗り避難した。
 2年前、海の異変を感じ取った者がいた。女性や子供を連れて高所へ避難するより、迅速に海へ逃がした方が良いだろうと聞かされた。
 その後、水が押し寄せた。波の頂は空の彼方。まるで空が落ちてくるかのように――。

 彼等は見た。海に消える数々の船を。
 障壁で分かたれ、海に沈んだ大地と人々の姿を。
 障壁の外に、一切の希望などなかった。

 他の犯罪者が拘束されている倉庫を破壊することと、重犯罪者が閉じ込められている場所を特定し、破壊することが計画されていく。
 自分達から目を逸らさせ、騎士団の仕事を増やしておくために、貴族の子供拉致や、関連のない場所の襲撃がまず計画された。
「貴族はほとんど館にこもってやがるからな。拉致れそうなガキなんているか?」
「今は知らんが、造船所と神殿を行き来しているガキがいた。……名前は、リック・ソリアーノ。伯爵サマの親戚らしいぜ」
「俺はガキはヤダな面白みがない。女がいい。偉そうな貴族の女を……めちゃくちゃにしてやりたい」


 領主の館の外れに、堅牢な造りの建物が在る。
 ここには、重犯罪者と魔力の高い犯罪者が捕らえられている。
 看守は騎士団員が交代で務めているが、事件の為に騎士団員が出払っている時や、食事の配膳などは館で暮らす貴族たちも囚人の世話を手伝っていた。
「まって……」
 食器を下げに来た者の手に、囚人の指が絡められた。
 白くて、華奢な少女の指だった。
「ランプの火が消えてしまって、怖いの。夜になると真っ暗になってしまう」
 少女の声は弱弱しく、震えていた。
「ここでは魔法が使えない、それに私は、鎖で繋がれている。だから私には何も出来ないから」
 絡められた指に力がこもる。
「怖くて、寒くて仕方ないの。人の温もりが欲しいの……」

 

 お願い。
 深夜に、鍵を持ってきて。
 重いドアをあけて、私を抱きしめて。

 

 

 サイドシナリオ第1回 参加案内

 

■選択肢

・領主の館にて犯罪者の誘惑に応じる(15歳以上で第二次性徴を終えている公国貴族か公国騎士、且つ知識、信頼の値がいずれも7以上)

・洞窟の探検(身長150cm以下で体型普通以下、且つ知識、体力、信頼の値がいずれも4以上)

・破滅派に加わる(知識、信頼の値がいずれも7以上。公国貴族、公国騎士不可)

・破滅派に協力する(知識3以下、体力14以上。公国貴族、公国騎士不可)

・温水プール、温泉をつくる(奇人、性格破綻者、変人等不可)

・治安維持の為に務める(公国騎士、もしくは信頼の値が7以上)

・領主の館で住み込みの召使いとして働く(港町住民か公国平民、且つ信頼、体力の値がいずれも7以上)

・野外移動中に巻き込まれる(シチュエーション指定不可。その日の行動を手段欄に記入)

 

■マスターより

メインシナリオ~サイド~を担当させていただきます、川岸満里亜です。

こちらのシナリオでは、主にガイドで取り扱われている出来事について描かせていただきます。

~グランド~の方は、表のストーリー、こちらのシナリオは裏のストーリーといったところでしょうか。

サイドは、個別シナリオの発生率がグランドよりもやや高いです。

 

2つのメインシナリオは、同じ時期に同じ舞台で発生している物語となりますが、別の分野を取り扱う別のシナリオとなりますため、こちらのシナリオの事件については、こちらのシナリオで、グランド側で取り扱われている事柄については、グランド側で解決を目指してください。

参加料金も違うシナリオとなりますので、こちらの事件についての解決策等を、グランド側に持ち込んだりしないようお願いいたします。

 

世界の謎に迫りたい方、じっくり深くゲームを楽しみたい方は、キャラ設定調整してでも是非こちらをご選択ください! 前作アトラ・ハシスをご覧いただいた方が、より楽しめます。

PCが重要な選択を迫られたり、PLの負担が大きくなるような展開に進む可能性が高いため、交流をしたくない方や失敗したくない方、気楽に遊びたい方は避けていただいた方が良いと思います。

ほのぼの温泉作ったりしますが、完成した場合はイベントでも取り扱いますので、無理にこちらにご参加いただかなくてもきっと温泉入れます(笑)。

 

では、第1回の選択肢について説明をさせていただきます。

 

『領主の館にて犯罪者の誘惑に応じる』

15歳以上で第二次性徴を終えている公国貴族か公国騎士、且つ知識、信頼の値がいずれも7以上の方のみ選択可能です。

犯罪者の臨時の世話は、最低この程度の年齢、能力がないと任されない仕事となります。性別については不問です。

牢の鍵は上記条件にあてはまる方は持ち出せますが、囚人たちの状態(拘束されているかどうかなど)については知りません。

 

『洞窟の探検』

身長150cm以下で体型普通以下、且つ知識、体力、信頼の値がいずれも4以上の方のみ選択可能です。

NPCに誘われたとして探検に参加します。最低これくらいの能力がないと声はかからないです。

魔法学校生である必要はないです。小柄なら大人でも大丈夫。

 

『破滅派に加わる』

知識、信頼の値がいずれも7以上で、公国貴族と公国騎士以外の方のみ選択可能です。

こちらは破滅派から勧誘されて仲間になるという形です。最低これくらいの能力がないと勧誘されないと考えてください。

 

『破滅派に協力する』

知識3以下、体力14以上の公国貴族、公国騎士以外の方のみ選択可能です。

こっちは、破滅派にそそのかされ利用される形となります。

例えば家族があの倉庫に閉じ込められてるんだ助けてーと言われて、素直に信じ込んでしまって倉庫破壊に協力するなどです。

 

『温水プール、温泉をつくる』

年齢立場問いませんが、魔法学校の子供達が参加しますため、変人や性格破綻者(30以上の値の能力がある方)は、加わらせてもらえないのでご選択いただけません。

 

『治安維持の為に務める』

基本は公国騎士の仕事ですが、信頼の値が7以上の方についてはボランティアで治安維持活動をしていても不自然ではないかと思います。

一般人の治安維持活動については、自治会のパトロールみたいな感じです。

 

『領主の館で住み込みの召使いとして働く』

港町住民か公国平民で、且つ信頼、体力の値がいずれも7以上の方のみ選択可能です。

体力があることと、教養はいりませんが最低限のマナーを知っている必要があります。

身分の高い方のお世話は相応の身分のある方の仕事となりますため、担当しません。朝から晩までこき使われます!

 

『野外移動中に巻き込まれる』

こちらは、どなたでも選択可能ですが、どんなことに巻き込まれるのか、及び巻き込まれるシチュエーションのご指定は不可となります。

その日の行動を手段欄にご記入ください。

負傷したり、拘束されて自由な行動がとれなくなる可能性があります。

 

選択肢の説明は以上です。

 

ガイドやリアクションに書かれていても、PCが知りえないことを知っているとしてアクションをかけることはできないです。

PLがやりたい行動であっても、PCの立場や能力上出来ないこと、不自然なことをしても、失敗してしまいますのでご注意くださいませ。

 

それでは皆様のアクションを楽しみにお待ちしております!