メインシナリオ/グランド第1回
『あなたのための希望のうた 第1話』


◆第一章 早朝の懸念
 未明──もっとも、ここでは人の手が夜明けを作り出すのだが──マティアス・リングホルムは静かに家を出た。心の中で「いってきます」と告げて。
 同居人である親友の両親は、まだぐっすり眠っている。
 頼りないランタンの灯りで足元を照らしながら、今日も旧天文塔へ向かう。
 寒さで自然と背がまるくなり、早足になっていった。
 歩きながら、マティアスは以前からの考えをまとめた。

 人工太陽打ち上げの指揮を執っているのは、キュカ・ロドリゲスという女性で魔法学校の教師である。
「いいぞ、順調だ……」
 いつものように射出機の数値を厳しい眼差しで見守る。
 多少の誤差は問題ないが、魔法動力変換器に込められる火力は多くても少なくても良くないので、魔術師達は慎重に力をコントロールしていた。
 マティアスも余計なことは考えずに集中している。
 ふと、足元に小刻みな振動を感じた。
 と、思った直後、くらくらと塔全体が揺れ、マティアスは思わず火魔法を注ぐ手を止める。
 他の魔術師も同様で、辺りを見回したり変換器や射出機を気にかけたりした。
 揺れは十数秒後には収まった。
「地震のようだな」
 誰かが呟いた。
「機器は大丈夫なのか?」
 マティアスがキュカに聞くと、彼女はランタンで照らして確認した後、
「大丈夫だ。異常はない。作業を続けよう」
 と、安心させるように微笑んだ。
「温泉もあるからな。地震が起きても不思議はないさ」
 キュカは気にしていないようだが、マティアスは万が一を考えた。
 その後、人工太陽は無事に打ち上げられ、マティアス達の仕事は終わった。
 帰り支度をするキュカをマティアスが呼び止める。
「ちょっといいか? 魔法鉱石のことなんだけど……」
 手を止めた彼女に、マティアスは懸念をぶつけてみた。
「代用がきくものとか、補えるものとかはないのか? もしあるなら、魔術師の負担も減らせるし、夜ももっと暖かく過ごせると思って」
 少しの期待を持って尋ねたことは、申し訳なさそうに首を振られたことで打ち消された。
「伯爵や研究所の人達とも調べたんだけど、そういうものはなかったんだ。石炭も底をついたしね……。何とかふんばってやっていくしかないんだ」
 キュカもやりきれない思いを抱えていると、その表情から察することができた。
「石炭は採れないのか?」
「ここでの採掘は望めないってさ」
「そうか……」
「今は箱船の製造が第一だけど、魔法具の研究がされてないわけじゃないんだ。ただ、研究員が言うには、一朝一夕で開発ができるものでもないらしくてね……」
 キュカは、以前やらかしたことを恥ずかしそうに打ち明けた。
「前に、人工太陽の熱量を上げたくて研究員をせっついたことがあったんだ。私もその人も疲れてたんだね……言い合いになったんだよ。落ち着いて話を聞いたら何てことないことだった。私達だって魔法の習得やコントロールには、それなりの時間を要するだろう。……それと同じことだったんだ」
「今は、このまま続けるしかないってことか」
「うん……。けど、このままだとみんなの負担がね。とりあえずは、人数増やすことを考えてるよ。──また打ち上げに参加してくれると助かるよ」
 マティアスは小さく会釈すると、やるせない思いを噛みしめて塔を下りて行った。
 塔から出て、早朝の青白い空気を吸い込んだマティアスは、先に下りた魔術師達が少し離れたところで何かを囲んでいるのに気が付いた。
「何してるんだ?」
「女の子が倒れてたんだ。ずい分弱ってるみたいだ」
 隙間から覗いてみると、生え際が白く毛先へ向かってピンク色になっていく髪が特徴の女の子が血の気の失せた顔色をして倒れていた。
「これから医者のとこに連れて行こうと思うんだけど、マティアスはこの子に見覚えあるかい?」
「いいや……」
「こんなところで何してたんだろうな。寒かったろうに」
 マティアスは運ばれていく女の子を見えなくなるまで見送った。

◆第二章 収穫量増加を目指して
 午前10時頃、ピア・グレイアムの自宅に数人が集まり農産物の生産量を上げるための話し合いが行われた。
 呼びかけたのはアウロラ・メルクリアスだ。
 畑の収穫が減っていくことへの対策も、一人では妙案も浮かばず、みんなで意見を出し合おうと知り合いに声をかけたのである。
 そしてまずは現状調査だ、ということで彼らはそれぞれ行動を開始した。
 クラムジー・カープマルティア・ランツと共に魔法学校の図書室に寄り、この地域の各生産高の記録書を探した。
 ほとんど見る人もいないのだろう。きれいなものだった。採集ページにメイユール伯爵のサインがあった。
 クラムジーは必要な分を書き写し、今は畑にいる。
 記録によると、洪水のあった年は平年並み。翌年は不作。
「なるほど、日光の影響を強く受ける作物が不作か……」
 そこで、収穫が望み薄となった作物を育てていた畑はどうなったのかと見てみると、冷涼な気候でも育つものに変えられていた。
「当然だね……。けどこれが、食卓にのぼる野菜の種類の減少に繋がるわけで……」
 ぼそぼそと独り言を言いながら歩くクラムジーの足元を、横のマルティアは気にしていた。
 足元への注意があまりにもおろそかになっていると……。
「センセ、手元ばっか見てると畑に落ちるよ!」
 突然背中からかけられた元気の良い声に、クラムジーの肩が小さくはねる。
 振り向くと、リーリア・ラステインが歩いてきていた。
 教養のあるクラムジーは、港町の人に『先生』と呼ばれることがあった。
「マルティアが横で気を揉んでたよ」
「大げさよ」
 悪戯っぽく言うリーリアにマルティアは苦笑し、クラムジーは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「土の採集はどう?」
「順調だよ。危ないことなんて何もないからね。畑に出てる人に会って話をしたんだけどさ……」
 クラムジーに答えたリーリアは、ふぅ、とため息を吐いた。
 あまり良い話ではなさそうだ。
「畑にはミミズとか付きもんだろう? 他にもチョウチョとかさ。そいつらの姿がめっきり減ってるって」
「ああ、なるほどね……ふむ、やはり足りないのは熱量か……」
「特に夜間は冷え込むからね……雨も降らないし」
「それでも、諦めることはできないからね。知恵と工夫で乗り切らないと」
「そうだね。あたし、うちの旦那にも聞いてみるよ」
 頷いたクラムジーは、不意に小さく笑ってリーリアの頬を指さした。
「土がついてるよ」
「え? ……あはは、さっき触った時かな」
 やだねぇ、と苦笑してリーリアは手の甲で頬をこすったが、まだついている。
「薄くなったけど、今度は伸びたかな」
「まあ、いいわ。土いじってりゃ多少はつくさ」
 リーリアはさっぱりと言い切ると、土のサンプルを集めるためクラムジー達と別れた。
 それからクラムジーとマルティアは、目的地であるやや南方の森の手前で足を止めた。もう少し進めば造船所に着く位置だ。
「それじゃ、軽く掘ってみるわね」
 マルティアが持ってきたシャベルで土を掘り起こす傍ら、クラムジーは少し離れたところにしゃがみ込み、地面に手のひらを当ててじっとその手を見つめていた。
 やがてクラムジーは諦めたように首を振り、立ち上がった。
「ダメだったみたいね。これならどう?」
 腕の長さくらいまで掘った穴を指すマルティア。
 クラムジーはその穴を覗き込むと、今度は寝そべるような姿勢で穴に片腕を突っ込む。
 目を閉じ、大地の息吹を探る。
 これはマルティアの発案で地熱を探っているのだ。
 温泉があるなら、地中には地熱が走っているはずである。
 人工太陽の熱量が少なくて作物が育ちにくいというなら、地熱を引っ張って土の活性化を図れないだろうか、というアプローチだ。
 マルティアが見守る中、クラムジーの表情がわずかに変化した。
「うん、あるね……ずっと深いところに温かい流れを感じるよ」
「その熱の誘導はできそう?」
「ん……」
 またしばらくの沈黙の後、しかしこの時クラムジーから出てきたのは、悔しそうなため息だけだった。
「そう都合よくはいかないみたいだ……」
「そっか……残念だけど、仕方ないわね。他にできることはないか探しましょ」
 マルティアは前向きに気持ちを切り替え、クラムジーも頷いた。

 その頃、イヴェット・クロフォードはある畜産農家を訪ねていた。
 出てきたのは、ややくたびれた男性だった。
「うちの牛や豚の糞を肥料にするのはかまわないけど、劇的な効果はないと思うよ」
「そうなんですか……?」
「うちにも小さいけど畑があってさ、試してみたんだけど……ま、やらないよりはマシって感じだったよ。それでもいいのかい?」
 イヴェットは思案するように視線を落とす。
 ピアの家に集まった人達もそれぞれ工夫を凝らすだろうから、そこに多少なりとも効果のある家畜の糞を使えばもう少し良い結果に繋がるのではないか。
 そう考え、イヴェットは頷いた。
「ええ。少しでもいいので分けていただけると助かります」
 そこで彼女は、仲間達と共にこれから試験的な畑を作ることを話した。
 男性の目に好奇心が宿る。
「へぇ。おいしいのができたら、うちにも少し分けてくれるかね?」
「もちろんです。家畜のエサにできそうなもの……ワラとかがまとまったらそれも差し上げます」
「期待してるよ。成功したら、その栽培方法も教えてくれ。堆肥にしたものをあげよう。どうやって持っていくかね? 荷車はあるかい?」
 男性はすっかり乗り気になり、一人で訪問したイヴェットのために荷車を用意し、ピアの家まで運んでくれることになった。
 先の見えない現状への不安を打ち破ってくれそうなものにすがりたいのだろうと、イヴェットは男性を見ていて思った。

 ピアの店『ベーカリー・サニー』はこの日、アルバイトが一人入っていた。
 シャオ・ジーランである。
 そして彼が来たことで思わぬメニューが増えた。
「肉饅頭……ですか」
「蒸しパンの一種です。ちょうどここにある材料でできそうですし、作ってみてもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
 下ごしらえを終えた食材はお昼にお弁当として売り出す予定だったが、好奇心が勝った。
 シャオはずっと東の国から来たという。
 食べ物を営む者として、未知の料理はやはり見てみたいし味わってみたい。
 シャオは慣れた手つきで作業を進める。
 ピアはじっと観察していた。
「型に流した生地の中には、肉、サツマイモ、何を入れてもおいしいですよ。お嬢さんのアイデア次第ですね」
「おかず類でも?」
「ええ。……まあ、ひょっとしたらハズレもあるかもしれませんけど。こちら、一つ作ってみます?」
 シャオに勧められ、ピアは型の一つに生地を流し、お弁当のおかず用に濃い目に味を付けたひき肉を真ん中に乗せた。
「うまいですね! きっとおいしくできあがりますよ! これで、蒸し上がったら完成です」
 蒸し器に蓋をしてから、シャオは思い出したように付け加える。
「蒸し上がりはとても熱いですから、ヤケドに気を付けてくださいね」
「おいしそうな予感がします!」
 ピアの声がはずむ。
「じゃあ、私は後ろで寝てきますので、お嬢さん、あとはよろしくお願いいたします……」
「ちょちょちょっと待って!」
 ピアは、エプロンを脱いで厨房を去ろうとするシャオの服を強く引っ張った。
「そろそろみんなが帰ってくるの。そうしたらいろいろ報告もあるでしょうから、その間のお店番を頼めますか?」
「んー……ま、いいですよ。かわいいお嬢さんのお願いですから。ふむ……ここなら毎日でも働……いえ、毎日働くのは性に合わないですね」
 後半は独り言のようでピアにははっきり聞き取れなかったが、とりあえず肝心の頼みは聞いてもらえることがわかった。
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね!」
 ピアはにっこりと笑みを返した。

 外に出ていた人達がピアの自宅のリビングに集まったのは、正午を少し過ぎた頃だった。
 テーブルには、まだ温かい蒸しパンと昼食用に取り分けておいた各種のパン、それと野菜のスープが並べられ、一働きしてきた面々の胃袋をよりいっそう空腹にさせた。
「みんな、お疲れ様でした。まずは喉を潤してください」
 と、ピアは爽やかなハーブの香りがほのかにする水を注いでいく。
 初めて見る、おかずなどが乗った蒸しパンは真っ先に注目を浴びた。
 ピアが説明をすると、世界は広いね、とみんなはしみじみ思った。
 それから、食事を進めながら報告会が始まった。
 イヴェットの話を聞いたトモシ・ファーロが目を輝かせる。
「肥料が手に入ったんだ。俺も黒い布を用意できたから、食べたらさっそく取り掛かりたいね」
「土はよく掘り返して混ぜるといいですよ」
 ピアの助言を、トモシはしっかり記憶した。
イラスト:雪代ゆゆ
イラスト:雪代ゆゆ
 休憩後、ピアの畑に足を運び、試験用の面積の土を丹念に掘り返した。そして、イヴェットが分けてもらった堆肥を混ぜていく。
 育てるものはいくつか挙がった候補から、ハーブ類とソバを選んだ。
「トモシさん、手慣れてるね。実家は農家だったの?」
 トモシが戦闘服と呼んでいる白衣を袖まくりして鍬でせっせと耕す姿を見て、一緒に作業をしていたアウロラが感心したように言った。
 いかにも室内中心の研究者といった風のトモシからは、力仕事の類は想像しずらい。
「師匠に鍛えられたので」
「お師匠さん……?」
「魔法の師匠だよ。洪水の時に避難したから、今頃どうしているかな。その師匠に魔法だけじゃなくて、生きていくのに必要ないろいろな雑用をこなす指導も受けたんだ」
「……そうなんだ」
 指導というよりも、何かとこき使われていただけでは……と思ったが、トモシが気づいていないようなのでアウロラは余計なことを言ってしまう前に話題を変えることにした。
「そういえば、リーリアさんが集めてきた土はどうだったの?」
 それに答えたのはピアだ。
「果樹園の土はそんなに悪くないと思います。野菜畑はあんまり……。でも、イヴェットさんがもらってきた肥料を試したら、いい感じになるんじゃないでしょうか」
「じゃあ、果樹園の実りがいまいちなのは、やはり太陽の問題か……。果物の発祥は暖かい地域が多いからな」
 そう結論付けたクラムジーは、何となく頭上の人工太陽を見上げた。
「ホンモノの空、忘れちゃいそう……」
 ぽつんと落とされたアウロラの言葉に、誰もが切なさを覚えた。
 その空気を、トモシののんびりした声がかき消した。
「種も欲しいから、受粉は人の手でやったほうがいいだろうね。今は自然の力はほとんどあてにならないから」
「そっか。多年草も一年で終わっちゃったりしてるものね。うん……手間がかかる分、畑のコ達に愛着がわきそうじゃない?」
 マルティアも明るい調子で応じる。
 アウロラも気持ちを切り替えて話に混ざった。
「ねぇ、畑にかけてる魔法だけど、たとえば一ヵ所にみんなでやったらどうなるかな? そこだけすごく元気になるのかな?」
「人工太陽は、みんなで力を注いで作ってるから、もしかしたら……?」
「反動が怖いなぁ」
 やや乗り気なマルティアと慎重なクラムジー。
「どちらにしても、一度収穫を終えた畑は休ませる必要があると思いますよ」
 イヴェットの指摘に、彼らは迷った。
「では、私の畑で試してみましょうか」
 いいの? と、いう視線にイヴェットは頷く。
「生長の早いほうれん草でやってみましょう。結果が楽しみですね」
「そういえば、箱船はいつ出るんだっけ?」
「完成が半年後くらいと聞いたから、出航は準備が終わり次第じゃないかな」
 トモシの疑問にクラムジーが答えた。
「ソバはだいたい4ヶ月後には収穫できるから、これは間に合いそうだね。あとは……」
 ハーブも生長の早い植物だ。
 箱船出航までの食材確保も大事だが、出航後もすぐに尽きてしまっては困るのだ。
 少しでも増やしたい、と彼らは願いを込めて畑を見つめた。
 その時、こんにちは、と聞きなれない声がした。
 声がしたほうを見ると、畑の向こうに港町でまとめ役をしているリルダ・サラインの姿があった。
 あっ、とトモシが声を上げる。
 黒い布の調達に出ていた時にリルダを見かけて、来れるようなら見にきてほしいと誘ったのである。
「遅くなってごめんなさい。私も皆さんのお話しを聞きたくて。そちらに行ってもいい?」
「どうぞ! 足元に気を付けてくださいね」
 ピアが応じ、リルダは作物を踏まないように気を付けて進んだ。
「計画の内容はトモシさんから聞いているわ。食糧事情には本当に頭を悩ませているの。栄養不足は病気の元にもなるし……」
「この結果がうまくいったら、農家のみんなにも試してもらいたいな。広めてくれるかな?」
 トモシの要望に、もちろんだとリルダは頷く。
 それから、リルダも加わってハーブとソバの苗を植えていった。
 リルダは畑仕事には慣れていないようで、植え終わった頃には腰が痛いと苦笑していた。
 ここに黒い布を被せるのだ。
「なるほど……これで少しでも熱を吸収させるのね」
「夜の保温維持も狙ってるんだ」
「後でこの計画についてまとめてもらってもいい? ちゃんと理解しておきたいの」
 堆肥を分けてくれた男性のように、リルダもこの方法に現状打破を見出していた。
☆  ☆  ☆


 ルイザム・デプレンドは、ある物を手に入れるためリルダを探していた。
 集会所にはいなかったので周辺を探し歩いていると、店が並ぶ通りでジスレーヌ・ソリアーノと立ち話をしているところを見つけた。
 リルダが話すことを、ジスレーヌがとても感心して聞いているようだ。
「……そうなのですか。私は魔法の力を伸ばせばいいのかなと思っていました。でも、それだけじゃダメなんですね……」
「今は、あらゆる知恵を出し合わなきゃね。ところであなた、こんなところまで出歩いてきて大丈夫なの? 最近は治安もあまり良くないのよ」
「でも、家にいても退屈なんですもの。それなら、外に出て何かのお役に立ちたいです」
「それは立派な心がけだけど……」
 リルダは少し困ったように眉を下げた。
 話が一段落着いたと見て、ルイザムはリルダに声をかけた。
 どこか凄味のあるルイザムに、ジスレーヌがわずかにうろたえた。12歳の女の子には、無愛想に呼びかけてきた男性は少し怖かったようだ。
 しかしルイザムは気にせず、リルダも気さくに挨拶を返した。
「いらねぇ貝殻はないか?」
「貝殻? 何に使うの?」
「元気のねぇ土には石灰を撒いてやるとイイ……って、どっかで聞いたんだ」
「そうなの。あるわよ、貝殻。道の整備に使おうと思ってとっておいたものがあるの。それを使って。倉庫まで案内するわ」
 歩き出した二人に、ジスレーヌが同行を願い出た。
「見学させてくださいますか?」
 どうする、とリルダはルイザムを見やる。
 作業の中心になる彼が邪魔だと思うのなら、リルダはジスレーヌに遠慮するように言うつもりでいた。
「かまわねぇよ」
「よかったわね、ジスレーヌ。さ、行きましょう」
 そして途中集会所に寄り、リルダの案内で連れて行かれたのは、港町の一角にある倉庫だった。
 リルダは集会所から持ち出した鍵で倉庫の錠を外す。
 重い扉を開けると、いくつか積みあがった木箱を示した。
「ここの木箱に貝殻が詰め込まれているわ。今、脚立を持ってくるからちょっと待ってて」
 ルイザムが呼び止める前に、リルダと倉庫の用具置き場へ行ってしまった。
 リルダは何でも自分でやってしまおうという傾向があるようだ。
 脚立とついでに予備の麻袋を運んできた彼女は、木箱の前に設置すると自ら上って行こうと足をかけた。
 今度こそ、ルイザムはそれを止めた。
「おれがやる。貝殻がほしいのはおれだからな」
 そう言ってリルダと入れ替わり、脚立を上った。
 蓋を開けると、大きな麻袋の中にきれいに洗った貝殻がぎっしり詰まっていた。
 かすかに懐かしい磯の香りがした。
 さすがにこの量を担ぎ出すのは無理なので、ルイザムはリルダが持ってきた麻袋を借りて、その中に貝殻を詰め込んだ。
 必要な量まではわからなかったので、そこは勘で決める。
 詰め終えた麻袋を持って倉庫を出ると、次にそれを地面に置いて持ってきたハンマーで叩き始めた。
 リルダもジスレーヌも、目を丸くしてそれを見ている。
「どうして粉々にしているんですか?」
 ハンマーの打撃音にかき消されないよう、少し声を大きくしてジスレーヌが質問した。
「粉々にしとかねぇと、作物の根が傷ついちまうんだとよ」
 ジスレーヌはしっかりと記憶するように頷き、ルイザムの作業を熱心に見つめていた。
 しばらくして、充分細かくなった貝殻はリルダに預けられた。
「どこかの農家にでもくれてやれ。もし効果があって追加がほしいなら、また砕いてやる」
「そうね……アウロラさんのところに持って行ってみようかしら」
 リルダはルイザムに、アウロラ達の活動のことを話した。
 それから集会所で少し休もうということで向かっていると、そのアウロラに出くわした。畑のほうが一段落したので、こちらも休憩に出てきたそうだ。
 リルダはさっそく事情を話して貝殻肥料を差し出した。
「わぁ! ありがとう! みんなにも話して試してみるね」
 アウロラはルイザムにお礼を言うと、ハンマーでさんざん叩かれてかなりくたびれた麻袋を大切そうに抱えた。
 リルダはホッとしたように息を吐く。
「あなた達のように諦めない人達がいてよかった。魔法学校の研究所でも土の回復力を高める方法について話し合われているんだけど、今のところ良い案は出てないの。農家の人達も、ちょっと諦めモードでね……」
「私も、難しいことはわかんないし、たいした魔法も使えないから……。だから、みんなで力を合わせたらって思って声をかけてみたの」
 アウロラを加えて集会所に入った四人は、疲れを癒すように椅子に腰を下ろした。
 しかしすぐにルイザムは思い出したように立ち上がり調理室に向かう。
 戻ってきた彼が持ってきたのは、ビスコッティだった。
 こんなお菓子、集会所にあったかしらと首を傾げるリルダ。
「どうしたの、これ」
「材料があったからな」
「私、お茶をいれてきますね!」
 目を輝かせたジスレーヌが調理室に駆けていくと、アウロラも後を追った。
「見かけによらず、器用なのね」
 ルイザムに微笑みかけると、リルダはお茶が来るのを楽しみに待った。

◆第三章 いつか来る日のために
「それでは、行ってまいりますね」
 その日、ベルティルデは午後から休暇をもらい、ヴァネッサ・バーネットと共に馬車に乗って水の神殿を後にすることになった。
 二人は、ムスッとした顔のルースと彼女の護衛の近衛兵達に見送られた。
 馬車専用の山道を下る馬車に揺られながら、ヴァネッサは苦笑した。ちなみに、町から神殿への道は馬車専用と徒歩専用があり、片道にかかる時間は馬車のほうが早いがやや遠回りの道筋になっている。
「姫様には嫌われちまったかな?」
「そんなことないと思いますよ。姫は少し人見知りなんです」
「少しねぇ……まあ、いいけど。ところで、姫様には主治医なんてのがついてるんだろうけど、庶民にはそんなものはいないのは知ってるね?」
「はい。自分で町医者に行くのだと聞いています。移動が困難な場合は往診もしてくれるとか」
「うん。でも、医者にかかるとカネもかかるってんで、ある程度は自分で治すのがほとんどだね。医療の知識がない彼らは、経験から治療法を学んだりするんだ」
「……あ、もしかして、なめときゃ治る……というものですか? 造船所の人達がよく言っていますね」
「あははっ、そうだね。あの人達は、もうちょっとあたし達を頼ってほしいけどね。で、そういった知恵ってけっこう馬鹿にできないところもあってね……」
 ベルティルデはヴァネッサが話す、経験が生んだ民間療法に興味深そうに聞き入った。
 やがて馬車は港町に着いた。
 ベルティルデは御者に帰りの時刻を告げると、二人は馬車を降りてしばらく町を歩いた。
 日中ということもあり、それなりに人通りがある。
 その時、通りすがりの人がヴァネッサを呼び止めた。
「あっ、ヴァネッサさん、ちょうどいいところに! ビルさんのとこに行ってやってくれないかい? 今日は何だか混んでてね、忙しそうなんだよ」
「わかった。すぐ行く。知らせてくれてありがと」
 足早に歩きながら、ヴァネッサはビルのことを説明した。
「町医者の一人でね。たまに手伝いに行くんだ」
 ベティルデは頷き返し、遅れないように足を速めた。
 港町の賑やかな通りの一つの一角に、ビルが経営する医院があった。
 専門は内科だが、大洪水以降は医者の数が減ったこともあり、簡単な外科も診ていた。
 中に入ると、患者が順番待ちをしていた。
 いつもなら一人か二人のところ、この日は十人近くいたことにヴァネッサは驚いた。
 みんな具合が悪そうにしている。
 受け付けの人に挨拶をすると、すぐにビルがいる診察室へ通してくれた。
 入れ替わりに、診察を終えた患者が出ていく。
 ビルは初老の男性だった。少し疲れた顔をしている。
「やあ、ヴァネッサ……と、そちらのお嬢さんは?」
 ベルティルデは自己紹介をした。
「そうか、水の神殿の……。そうだ、ヴァネッサ。奥の部屋の子を少し診てやってくれないか? 今朝がた運ばれてきたんだが、ずい分疲労しているみたいでね。それも、旧天文塔の近くに倒れてたというんだ」
「あんなところに?」
「ああ。ずっと眠っているから、何があったかはわからんがな」
 二人は奥の部屋にある二台あるベッドの一つに案内された。
 そこには、毛先にいくにつれ濃いピンクになっていく髪をした少女が眠っていた。
 ヴァネッサは額や首筋に触れて状態を探った。
「体温が低いね……少しマッサージしてみようか」
 ヴァネッサは布団の中から少女の手だけを取ると、指先をゆっくりと揉み始めた。
 ベルティルデはその様子をじっと見ている。
「あの、この人は助かるのでしょうか?」
「この子しだいだね。もっとも、あたしは死なせる気はないけどね」
 しばらく、静かな時間が流れた。
 やがて、ぽつりとヴァネッサがこぼした。
「今、一部の民間人には、貴族への不満が渦巻いている。こんなご時世だ、みんなギリギリなんだよ。極限状態が促す心のささくれ、とでも言おうか。医療術師としては、このささくれも予防したいんだ。それには、あんた達貴族の力もいるんだ」
 ベルティルデの日常は、ルースと共に神殿で障壁の維持に努め、終われば伯爵の館へ帰る。これがほとんどだ。
 ルースは社交の場を好まないため、館で貴族が催すお茶会に出席することもない。
 外出と言えば、たまに造船所へ行くくらいだ。
 人との関係が薄いベルティルデは、ヴァネッサの願いに応えたくてもどうしたらいいのかわからなかった。
「……ごめん。急だったかな。でも、大げさな話じゃないんだ」
「このこと、姫にもお話しします。わたくしも、ここに生き残った人達同士で傷つけあうようなことにはなってほしくありませんから」
 そんな二人の会話を、眠っている少女──リリステラは、夢見心地に聞いていた。
 人工太陽の打ち上げ準備中に起こった地震は、彼女が引き起こしたものだった。
 本当はもっと大きく、地割れくらい起こしてやりたかったのだけれど、身体への負担がそれ以上に大きくて意識を失ってしまったのだ。
 やり場のない憤りをこの狭い世界にぶつけても、結局は自分が傷ついただけだった。
 いっそ泣きわめいてしまえば楽になれたかもしれないが、リリステラにはそれさえもできなかった。
 いったいこれから自分は、何のために何をして生きていったらいいのか。
 誰かのあたたかい手のぬくもりを感じながら、悲しみの中をさまよっていた。

 患者の数が落ち着くと、ヴァネッサとベルティルデは再び町中へ出て巡回を始めた。
 しばらくは行き交う人達と和やかに挨拶を交わしながら歩いていたが、やがて人通りの少ない辻に差し掛かった時、彼らに出会った。
「この程度の怪我では、人間は死にようがない。情けない声を出すな!」
「けどよぅ、先生さんよぅ、いてぇもんはいてぇんだよ」
「だったら喧嘩などするな。たとえしても、怪我など負うな。無傷で勝て」
「無茶言うぜ」
 手当てを受けているのは向こうっ気だけは強そうな若者で、治療をしているのはミリュウだった。
 ウァネッサがミリュウに声をかけた。
「やあ、ミリュウ。喧嘩かい?」
「む? ああ、医療術師の。ふん、つまらん喧嘩だ。理由は聞いてやるな」
「喧嘩の理由なんて興味ないよ」
 おおかた金銭トラブルだろうと、ヴァネッサは若者の身なりから目星をつけた。
 一人、わかっていないベルティルデが質問をしようとした時、道の向こうから荒々しい男達の大声が近づいてきた。
 うめいていた若者の顔に、サッと緊張が走る。
「やべぇ……隠してくれっ」
「もう見えてんだよ!」
 若者はミリュウを盾にしようしたが遅く、駆けつけたいかにも悪そうな男に引きずり出された。
 止めに入ろうとするベルティルデを、ヴァネッサが制止する。
 若者は四人の追手に囲まれ、半泣きで土下座する。
「ごめん、もうしないから!」
「ごめんですむ額だと思ってんのか!? 役に立たねぇくせに、コソ泥の真似しやがって!」
「死刑だな」
「それ以外ありえねぇな」
「磔にしてなます切りにするか」
「言いたいことは、それだけか?」
 突然会話に加わってきたミリュウに、ごろつき達が殺気立った目を向ける。
「この天才たる自分が手当てをしていたのだぞ。たとえ志の一つもないごろつきであっても、我の前で苦しむなら等しく患者だ。医術という神聖な行為を妨害するということは、どういうことか……」
「けっ。腐れ医者が。引っ込んでろ、殺すぞ」
「我が極めし天翔朱雀流にて、猛省するがいい!」
 天翔朱雀流とは、炎を操る流派の武道である。
 文字通り、炎をまとった拳の連打を浴び、ごろつき達はあっという間に倒れ伏した。
「ミリュウ……怪我人を増やしてどうする……」
 ヴァネッサは呆れ、ベルティルデは呆然としていた。
 助けられたはずの若者も、悪夢を見たような顔でミリュウを見上げている。
「責任は取るさ。まずは我を殺すなどと言った貴様からだ」
 自分を圧倒した者に真上から見下ろされ、男は何か叫びながら逃げ去っていった。他の三人も置いていかれまいと駆け出す。
 結局、最初に手当てを受けていた若者だけが残った。
「あたしらはもう行くよ。じゃあね」
 ヴァネッサは、まだ呆けているベルティルデを連れて、その場を後にした。
 そろそろ日が傾き始めてきたから、今日はこれで神殿に戻るつもりだ。

 待っていた馬車に乗り水の神殿に戻ると、近衛兵達の姿を見つけた。予定通り、ルースの仕事が終わる前に帰って来ることができたようだ。
 ベルティルデは近衛兵隊長のサスキア・モルダーに帰還の挨拶をした。
「姫は、終わるまでこの辺りで待っているようにとおおせでした」
「わかりました」
 サスキアは二十代前半の女性だ。若いがしっかりとした人物である。
 ベルティルデとヴァネッサは、ルースを待つ間、神殿の周りを少し歩くことにした。
 すると、イリス・リーネルトとリック・ソリアーノが外の水甕に水を溜めているのが見えた。
 水の魔術師達の負担を少しでも減らしたいイリスが、リックを誘ったのである。すでにフレンには話を通してある。
「この水甕大きいから、なかなか溜まらないね」
「でも、これをいっぱいにすると、ここでがんばってる魔術師達が助かるものね」
「そうだね。これが溜まったら少し休もう。僕達が倒れたら元も子もないからね」
 二人が水を溜めている甕の水は、ほとんどが魔術師達の飲み水に使われている。
 奥には狭いキッチンと休憩室があり、そこで湯を沸かしてハーブティなどに使用されるのだ。
 ルースと共にここに通うベルティルデは、直接話したことはないが二人の顔は知っていた。
「こんにちは。いつもおいしいお水をありがとうございます」
 ベルティルデが二人の背に声をかけると、水を溜めるのに集中していた彼女達の肩がビクッと跳ねた。
「……ベルティルデさん?」
「あまり無理はしないでくださいね」
「大丈夫、まだまだできるよ!」
 元気の良いイリスの答えに、ベルティルデは微笑みを返した。
「この時間に外にいるなんて珍しいね。ヴァネッサさんとお散歩してたの?」
「港町を案内していただいたのです。とても貴重な経験をいたしました。わたくしは、ここでの仕事だけでなく、もっといろいろと知らなくてはなりませんね」
「ベルティルデさんが外でお勉強してる間、わたしが代わりをできればいいのに……」
 休憩に出てきた神殿長のナディア・タスカに障壁維持への参加を打診したのだが、もう少し体力がついたらお願いしますと言われてしまったのだ。
「イリス、この甕はもういいんじゃないかな」
 リックの声に甕を覗いてみると、充分に水で満たされていた。
「休憩しよう。マテオ・テーペのとこに行く?」
「うん、そうしよ」
「それじゃ、ヴァネッサさん、ベルティルデさん、またね」
 神殿の近くに天高くそびえ立つマテオ・テーペのところへ、二人は連れ立って歩き出した。
 イリスがリックと手を繋ぐと、
「あ、転ぶと痛いもんね。イリス、足元に気を付けてね」
「え……それ、わたしのセリフ……」
 先に言われてしまったイリスだった。
 そして、二人並んで巨岩を見上げる。
 強い憧れの目でその頂を見つめるイリスに、リックが尋ねた。
「どうしてそんなにこの岩が好きなの?」
「ん……どうしてかなぁ。小さい頃からずっと好きで、あのてっぺんに行ってみたいって思ってたんだ」
「そうなんだ」
 リックは頷き、てっぺんからはここはどんなふうに見えるんだろう、と想像を巡らせた。
☆  ☆  ☆


 放課後、魔法学校の校庭でランシア・アクリアエリス・アップルトンは魔法の自主練習を行っていた。
 ランシアは自身の魔法コントロール力を磨こうと、図書室に通って練習方法を研究した。
 教師のハビ・サンブラノが言うには集中力が必要とのことなので、それを高めるための方法や使われる道具などの事例を探した。
 そして、使いやすそうという理由から、杖を用意してみた。
 それと、水が入ったコップ。
 ランシアはコップに杖を向けて、その杖先に意識を集中させ、水だけを引き寄せようと試みる。
 今日は調子が良いようだ。
 コップの中の水は、不定形にゆらゆらと揺れながらランシアの元に移動してきた。
 ランシアは気を緩めることなく、次の課題に挑戦する。
 水の粒を抜き出して撃ち出すのだ。
 ほとんど睨むように水の塊を見つめ、その中から何とかして一部を抜き取る……が、思っていたものより大きかった。
「……まあ、いいわ」
 まだ最初だもの、と自分を納得させ、次にそれを矢のような勢いで飛ばす!
「……」
 飛ぶというよりも、失速して墜落したといった感じだった。
 おまけにかなりの疲れを感じた。
「ま、まだ始めたばかりだからね。これからこれから。コツコツと練習を積み重ねていくことが大事なのよ……そうよね、エリス!」
「……え? な、何でしょうか?」
「エリス……大丈夫? 今日はずっとぼんやりしてたね。具合でも悪いの?」
「いえ、具合は悪くないですよ。ちょっと考え事をしていただけで……」
 その時、校舎から出てきたハビが二人を呼んだ。
「おーい、悪いんだけどちょっと手伝ってくれるかな!」
 何かと思いついて行くと、廊下を歩きながらハビが説明を始めた。
「これから会議室で話し合いがあるんだ」
「はぁ……」
 いまいち要領を得ない内容に、ランシアは気のない返事をする。隣のエリスも不思議そうな顔だ。
「人工太陽のことについてなんだけどね……」
「あの、私達に話してもいいんですか?」
 慌てるエリスに、ハビは振り返ると何とも言えない表情で、少し声を落として言った。
「君達にも、無関係ってわけでもないから。人工太陽の打ち上げに関わってる火の魔術師だけど、けっこう負担がかかってるみたいでね……。生徒の手を借りることはできないかって、相談が来たんだ」
 二人はとっさに反応できなかった。
 約二年間、人工太陽は一日も欠かさずマテオ・テーペを照らしてきた。
 彼らは交代で打ち上げを行ってきたが、途中で体調を崩す者も多く、欠けた分は代わりが来るまでは残った人が埋めていた。
 それを繰り返しながらどうにか今日までやって来たが、やはり人員確保は必要だという結論が出たそうだ。
 ランシアはハッとして尋ねた。
「もしかして、水の魔術師も……?」
「いずれは……」
 ハビの表情から、その日はそう遠くないとランシアは感じた。
 会議室を軽く掃除してテーブルを並び替える。
「二人とも、ありがとう。助かったよ」
 準備が整うと、ハビのお礼の言葉で解散となった。
 ランシアはまた魔法の練習に行ったが、エリスはその場に留まりずっと抱えていた悩みを打ち明けた。
「先生、わたしも近いうちに障壁の維持のお手伝いをすることになるのでしょう。いえ、そのことに不満があるわけではないのです。生まれ育ったこの町に対する義務だと思っていますから」
 ハビは小さく相槌を打つだけで、エリスの話に耳を傾けている。
「……ですが、わたしはやっぱり外の世界を見てみたいのです。非力なわたしでも、箱船計画に貢献できるような機会に触れることはあるのでしょうか?」
 エリスにはもう、外の世界への想いを断ち切ることはできないとわかっていた。
 けれど、自分に力仕事ができるとも思えず……。
「たとえばの話だけど」
 ハビが慎重に口を開く。
「海上がいつも穏やかとは限らない。天気が急変して嵐に見舞われることもある。船の転覆を防ぐためには操舵士の腕前はもちろんだけど、水の魔術師の力も必要になると思う。でも、自然の力に対抗するには、相応の力が求められるだろうね」
「練習を積めば、わたしにもできますか?」
「保証はできないけど、何の練習もしないよりはずっといいと思うよ。それに、箱船に乗る水の魔術師は君だけじゃないしね。トラブルはみんなで乗り越えればいいんじゃないかな」
 エリスは勢いよく礼をすると、ランシアのいる校庭に駆けて行った。

 都心から離れたこの地域には、印刷機などというものは存在せず、本は高価なものであった。
 魔法学校の図書室には、写本や魔道書などの書物が所蔵されていたが、蔵書数はかなり少なく、貸出などは行われていなかった。
 図書室に訪れた生徒たちは、書物を持ち帰ったりせず、この場で自分のノートに写していく。
 そうして作成された写本や、生徒達が纏めたノートも優れたものは、書物としてこの図書室に残されていくのだ。
「学生向けの大陸の地図はあるけれど、世界地図はないのね……というより、世界の全てを把握している人なんていなかったんでしょうね……」
 地図を見て、リエル・オルトはそんな感想を漏らした。
 教材として使われている資料、そして教科書にも大まかな大陸と付近の島は載っているが、完成された世界地図というのはここにはなく、リエル自身も生まれてから今まで目にしたことがなかった。
「少なくても、同じ標高位の土地は皆水に沈んでいるはず。ここよりも高かった場所……高い山は……」
 ここよりも標高が高い場所に、生き残った人や、避難した人がいるかもしれない。
 リエルは港町の住民であり、知り合いも友達もとても多い。皆で、助け合ってこの世界で生きていた。
 だけれど、港町にも希望が見えないせいで、荒れてしまったり、ふさぎ込んでしまい引きこもっている人もいる。
 目指す場所や具体的な希望があれば、もうちょっとやる気や、連帯感が出るのではないかと思って。学生ではないけれど魔法学校の図書室で調べさせてもらっていた。
「んー……海面からここまでの距離って、判ってるのかしら? 噂のお姫様なら判るのかしらね?」
 顔を上げると、前に座っていた青年と目が合った。
 リエルの問いに、調べものをしていた青年――ノイマン・ヘントは、ふっと優しく、でも少しさびしげな笑みを見せた。
「水の障壁はドーム状に施されているから、天井の一番高い部分は、3kmくらいだと思うよ」
 ノイマンは公国から少し離れた国の考古学者であった。
 現在は魔法に興味を持ち、学生としてこの魔法学校で過ごしている。
「僕はまだ魔法知識に疎いから、詳しいことは分からないんだけれど……夜には真っ暗になり、一切の光が見えないということと、天井から海上までの距離によっては、ドーム状ではなく柱状に障壁を張った方が良いだろうということから、それが出来ないくらいには、深いってことじゃないかな」
「ううん……そっかあ……。公国と王国にも山はあるけれど、あんまり高くなさそうよね。それに山の上の方はとても寒いし……。南の方のアルディナ帝国あたりは暖かいし、高い山も多そう」
 まずは南を目指すのが良いんじゃないかなと、リエルは思う。
 ただ、アルディナ帝国はウォテュラ王国と対立していた国であったが、リエルはそのことを知らない。
「そういえば、精霊って四大精霊だけかな? 調べたんだけど、他の精霊についてはどこにも載ってないのよね」
「精霊? あ、魔力の種類のことだね。僕の国や他の国でも、火、水、風、地の四種類だけしか存在してないよ」
「そっか、ありがとう」
 リエルはお礼を言うと、開いていた地図や本を閉じて立ち上がった。
 今日はここまで。あとは……。
「レシピ本写して、暗くならないうちに帰らないと」
 日照不足の時の記録や、日蔭でも育つ強いハーブや植物についてや、昔の保存食についても知りたい。
「熱中しすぎて、時間を忘れないようにね」
 植物本のコーナーに向かうリエルを見送りながら、ノイマンも本を閉じて立ち上がる。
 ここの図書室には彼が求める本は、存在していなかった。
 探していたのは、水の神殿に関する文献。
 ここでは、教科書に載っている程度の情報しか得られそうもない。

「少し、お時間いただけますか?」
 図書室を後にし、ノイマンは教師であるレイザ・インダーのもとに訪れた。
「なんだ?」
「水の神殿について知りたいのです」
 講義を終えて帰宅しようとしていたレイザと、肩を並べて歩きながら質問をしてみる。
 この魔法学校の卒業生であり、人脈もある彼ならば、何か知っているのではないかと思って。
 図書室の書物には、水の神殿について書かれているものはなかった。
 ノイマンはレイザに水の神殿が建てられた成り立ちや、祀られている神、そして行われていた祭事や儀式、マテオ・テーペの伝承などについて、知っていることがあったら教えて欲しいと尋ねていく。
「……それを知ってどうするんだ?」
 一呼吸おいて、ノイマンは真剣な面持ちで話しだす。
「結界を維持する負担を減らすことに繋がる情報が欲しいんです。少しでも、魔術師の皆の負担を減らしたい」
 ノイマンは古い友人に会うため旅行者としてこの地に訪れていた。
 水の魔術師だった友人は、障壁を張った際に命を落としてしまった……。
「友人や、亡くなった水の魔術師さん達が残してくれたこの場所を僕も守りたい。僕自身は他国の者だし魔法の才能もさほど無い。それがとても悔しい」
 切々と語るノイマンの言葉を、レイザも真剣な顔で聞いていた。
「水の結界維持に使われている力は、神聖な物ではない。あそこには、ウォテュラ王国が設置した魔法具がある。詳しいことは分からないが、その魔法具に水の魔力を注ぎ、水の魔術師たちは結界を維持しているようだ」
 だから、自分達にできることは、水魔法の使い手を護ること、癒すこと、そして育てることだと、レイザは言う。
「神聖な力ではないにしても……なぜ、そのようなものを王国がここに?」
「……さあな。その王国も全て海の中だ。伝承とか理由なんてどうでもよくないか? それを知っても魔術師たちの負担軽減には繋がらない。そこにそれがある。それをどう用いて、皆で生き延びるかを考える。お前はお前の出来ることをすればいい」
 穏やかにそう言うとレイザはノイマンを残し、魔法学校を後にした。
☆  ☆  ☆


 その日、ステラ・ティフォーネはある貴族の夫人の衣類の整理を手伝った。
 もう着ないだろう服は、違うデザインに仕立て直すのだとか。
 ステラが見たところ、夫人は衣類にことさら関心を寄せることで、現実から目を背けているように窺えた。
 夫人の雰囲気に引きずられないよう心を律しつつ、手伝いを済ませた。
 そして一日の仕事を終えた夜、ステラは庭で魔法の練習をしていた。
 精度、威力、持続力……できるだけ理想に近づけたい。
 不意に声をかけられた。
「そこにどなたかいらっしゃるのですか?」
 振り向くと、ランプを掲げた男性が立っていた。
 揺れる炎の向こうにある顔は、この館で執事をしているエドモンド・モズレーのものだった。
「……ああ、ステラ様でございましたか」
「こんばんは。お騒がせしてしまいましたか……?」
「いいえ。館のほうには何の影響もございませんよ。私は見回りに来ていただけです」
「最近、少し物騒ですものね」
「ステラ様は何をなさっておいでで? そろそろ冷え込んでまいりますよ」
「風の魔法の練習をしていたのです。箱船に乗って海の上に出た時に、役に立てるように……」
「そうでございましたか。ステラ様は魔法の才があおりなのですね。私はこのように……ランプに火を灯すのがせいぜいです」
 エドモンドは火属性のようだ。
「すみません、お邪魔をしてしまいましたね。ステラ様、お体を冷やす前にお部屋にお戻りくださいね」
 エドモンドは丁寧に礼をすると、館に戻っていった。
 その後ろ姿を見送った後、ステラは練習を再開した。
 熱心な彼女を、ランタンの炎と庭の植物だけが見守っていた。

◆第四章 温度差
 ある日の晩、赤ひげは造船所の労働者達に呼びかけて、ささやかな宴の場を設けた。
 場所は、造船所内の食堂。
 食堂の従業員は帰ってしまったが、酒のつまみは作っておいてくれていた。
 ちなみに使用許可はリュネ・モルが取った。
 この集まりの目的は、労働者達の結束を高めることである。
 赤ひげに誘われて、その場の勢いで働きに来た者も多い。そういう者は、途中で仕事を投げ出すこともあった。
「集会のことを所長に話したらよ、エールを振る舞ってくれたぜ」
「あまり質が良くなくてすまない、とのことです」
 赤ひげの言葉にリュネが続く。
 赤ひげはその背をやや強く叩いた。
「野暮なことは言うなって! 味が薄かろうが久々の酒だ。今夜は飲んで騒ごうぜ!」
 赤ひげの声に労働者達は歓声をあげた。
 今は酒の材料になるものの大半はパンなど主食に回されている。そのため、酒の製造量は減っていた。
 酒量も進みほろ酔いの空気が漂い出した頃、誰ともなくルース姫への愚痴をこぼし始めた。
 赤ひげはそれを止めるでもなく、濃い目に味付けされた肉と野菜の煮物をつつきながら眺めていた。
「……あの姫さんが来ると、やる気なくなるんだよなぁ」
「わかるわかる。言ってることは正しいのかもしれねぇけど、あんな上から物を言わなくてもいいだろうに」
「まったくだぜ。おまけに俺らを見るあの目! ありゃ盗っ人を見る目だぜ」
「その信用ならねぇ奴らが造った船に乗るんだけどな」
「姫さんの部屋に細工してやろうか」
「やめとけ。逐一チェックしてるんだ。気づかれるともっとうるさくなるぜ」
 はぁ~あ、と一同から疲れたため息がもれた。
「もうやめようかなぁ……」
 そんな声が呟かれた時、赤ひげが彼らの話に加わった。
「お前らは姫さんのために箱船を造ってんのか? 違ぇだろ、俺らの未来のためだろうが」
 労働者達はハッとして赤ひげを見つめた。
 赤ひげはにやりと笑んで続ける。
「姫さんは確かに高飛車だ。俺らのことなんざ、木屑と同じくらいにしか思ってねぇかもしれねぇ。だったらよ、俺らは姫さんがケチのつけようのねぇ船を造ることで、見返してやることができるんじゃねぇか?」
「それまで黙って言うこと聞いとけって? 出航する頃にはハゲてそうだぜ……」
 頭頂部が寂しくなってきた頭を撫で、壮年の男性が渋面で言った。
「別に黙ってるこたぁねぇだろ。俺らは木石じゃねぇんだ。けどな、さっきも言った通り、箱船は姫さんのために造ってるわけじゃねぇ。箱船は、灯台だ。ここの連中が眠れねぇ夜を過ごしている時の希望の火だ!」
 赤ひげの口上に、労働者達は二年前の悪夢で失った人々や、生きているかもわからない避難民達のことを思い出した。
「そうだな……こんなとこでくたばってたまるかってな」
「女房とガキ、助けに行ってやらねぇと」
 労働者達の気持ちが上向いてきたのを見て、赤ひげはガハハと笑った。
「姫さんに見せてやろうじゃねぇか。俺達の力を!」
 彼らはコップや食器を掲げ、声をあげた。
 労働者達の意欲の低下はリュネも気にしていた。
 だから、赤ひげがもたらしたこの状況は良い傾向なのだが、同時に懸念もあった。
 ルースとの衝突も辞さない、という雰囲気になってしまったことだ。
 リュネとしては、もっと穏やかに関係緩和を図りたいと思っている。
 エールをちびちびやりつつ思案した。

 翌日、造船所にアシル・メイユールが進捗具合の確認をしにフレン・ソリアーノを訪ねてきた。
 二人の話が終わった頃を見計らい、リュネはフレンに昨夜考えたことを相談した。
「姫様には一日、労働者達と共に過ごしていただきたいのです。働かざる者食うべからずの精神と、粗食に耐え労働に勤しむ彼らの姿をご覧になってくださればと」
 フレンはリュネの言いたいところを理解して苦笑した。
「残念ながら、双方の溝は深いと思います」
「見たところで変わるかどうかはわかんねぇぞ。かえって険悪になるかも……?」
「そうなったら、もう成り行きにまかせるしかありませんが……こういうのはどうでしょう」
 ルースが来るのに合わせて、ルースからの気持ちという名目で差し入れをすることをリュネは提案した。
「なるほどねぇ。姫さんがその提案に納得するならかまわねぇよ。一日だけ黙って見ているようにってことは俺から言っておいてやろう」
 今度はリュネが苦笑いをした。
「やはり、お話ししたほうがいいですかね?」
「そりゃあそうだろ。自分の知らないところで自分の名前で差し入れやらを配られてたら、本人が知らないうちはいいが、知っちまった時は新たな問題になるぜ」
 何より気味悪いだろう、とフレンは言った。
 リュネはちらりとアシルを見やったが、彼が口を挟む様子はない。
 リュネの判断に委ねるつもりのようだ。
 その時、明るい声が話に加わってきた。
「何か、聞こえちゃったんだけど姫様が一日密着してくれるって? ということは、侍女のあのコも来るよな?」
 期待の目で話すのはリューク・クラインである。
「いやー、労働者が増えたのはいいんだけどさ、ちょっとむさ苦し……げふん、ええと……そうそう、たまには目の保養になる女性が現れてくれてもいいかなって思ってたんだよ。姫様達の他にも、もっと呼んでくれないかな?」
「ははは! 確かに、美女に微笑まれながら仕事するのは悪くねぇな!」
「でしょ! やる気アップ間違いなし!」
 フレンとリュークは意気投合して頷きあった。
 リュネはというと、ルースが自分達に冷笑を向けることはあってもあたたかい微笑みを向けることは想像できなかった。けれど、言い出したことはやってみようと決意した。
「所長、姫様にはきちんとお話しします。ですから、先ほどの件、よろしくお願いします」
「おう、任せとけ。お前さんもしっかりやれよ。姫さんは、警戒心は強いが性根は曲がっちゃいねぇからな」
 ルースの神殿務めが休みの日に決行することになった。
 リュネが持ち場に戻ると、リュークがアシルに尋ねた。
「箱船計画の進行状況って、どんな具合なんです? 船の状況はだいたいわかってるつもりなんですけどね」
「船で今問題になっているのは、艤装関係です。あなたも目にしたことがあるかもしれませんが、ルース姫と魔法具の技師や船の設計者などがもめているでしょう」
「あー……」
 いつだったかルースが試作の金属片を叩きながら技師に厳しく注文をしていた様子を、リュークはぼんやりと思い出した。
「箱船がここを出た後、要になるのは姫です。姫が納得しないものを船に装備させるわけにはいきません。彼女の言葉はきついでしょうけれど、どうか聞き入れてあげてください」
 不意に造船所の出入り口のあたりが騒がしくなった。
 見やると、ヨレヨレの白衣を羽織った痩身の女性がまっすぐにこちらに歩いてきている。
 彼女は、アシルの前で足を止めると、
「吾輩はDrカーモネーギー」
 と、名乗った。
 アシルはその名前に聞き覚えがあった。
 先日、門番の報告を受けた執事から聞かされたのだ。
「先日は門番が失礼をいたしました。私がアシルです」
 Drカーモネーギーは鷹揚に頷くと、さっそく用件に入った。
「吾輩は自国では魔鋼王と呼ばれた魔法鉱石の専門家ネギ! 箱船計画で魔法鉱石の力が必要だというなら、絶対に吾輩の力が必要ネギ!」
 まっすぐにDrカーモネーギーを見て話を聞いていたアシルは、魔法鉱石を使用した魔法具に関してマテオ・テーペが抱えている問題について話した。
「……今は箱船を最優先事項にしているので、実は他のところがおろそかになっているのです。魔法具が使われている重要なものとして、人工太陽と水の障壁、それから障壁内の湿度を保つ魔法具があります」
「今朝、人工太陽の打ち上げ準備中に旧天文塔のあたりで地震があったと聞いたネギ。機器に影響はなかったと聞いたネギが……」
「ええ。ですが、それを聞いた時はゾッとしました。障壁に関しても、もっと魔術師の負担を減らせるような改良ができたらと思うのです。ですが、あなたもよくご存じのとおり、魔法具の開発には専門的な知識が必要です。ドクター、水の神殿にある魔法具の改良に力を貸していただけませんか?」
「それは今すぐの話ネギか?」
「できればそれがいいのですが、装置の設計図などの資料をまとめたり神殿長と調整もしたいので、少しお時間をいただければと思います。準備が整い次第、使いを送ります」
「……仕方ないネギ。連絡を待つネギ」
 Drカーモネーギーは、このチャンスを潰すまいと短気を起こしそうになるのをこらえ、造船所を後にした。
☆  ☆  ☆


 神殿の仕事が休みの日、ルースと侍女のベルティルデが造船所を訪れた。
 フレンの頼み通り、ルースは今日一日黙って見ていることを約束した。
 しかし、リュネの提案には眉間にしわを寄せた。
「貴重な保存食をご機嫌取りには使えないわ」
 あまりにもきっぱり言うため、リュネは彼女の相手をすることの多い技師達にやや同情した。
 彼は根気強くルースに今ある溝を認識してもらおうと試みる。
「姫様、出航すれば統治階級と市民の距離は物理的に狭くなります。それが何を意味するのか、きちんと考えたことはありますか?」
「部屋は分けてあるし、鍵もあるわよ」
「そういう意味ではないのです。率直に申しますと、今までのような権力保持が難しくなるのです。長い船旅になるでしょう。乗組員同士の結束はもちろん、それを指揮する者との信頼関係も重要だと思いませんか?」
 ルースは胡散臭そうな目でリュネを見た後、
「考えておくわ」
 と素っ気なく言ってベルティルデを促して歩き出した。
 リュネとすれ違う時、ベルティルデが申し訳なさそうに会釈していった。
 あの人の言う通りですよ、というベルティルデの声が小さく聞こえてきた。
 その日、コタロウ・サンフィールドは甲板に使われる板の塗装作業をしていた。
 その傍をルースとベルティルデが通りかかった時、誰かがルースを呼び止めた。
 魔法具開発担当の技師の一人だ。連日の作業の疲れによるものか、目の下にうっすらと隈を作っていた。年頃はコタロウと同じくらいか。
「これならどうでしょうか? 魔術師の負担をかなり減らせると思います。万が一、船全体を覆うことになっても、術者が倒れるような事態にはならないかと……」
 目の前に広げられた紙を見て、ルースは大きくため息を吐いた。
「設計図を見せられてもわからないわよ。試作品はないの?」
「は、はい。こちらです」
「ふぅん……」
 ルースは渡された手のひらサイズの魔法具を眺めると、さっそく試してみた。
 ルースがこめた魔力は魔法具で薄い水の膜に変換され、その手をすっぽり包んだ。
「ベル、つついてみて」
 言われたベルティルデが指先で軽くつつくと、水の膜はその衝撃をやわらかく受け止め、膜には波紋が広がった。
「次はそこの木屑でやってみて。強くね」
 ベルティルデは言われるままに近くに落ちていた木材の破片を拾って、水の膜に押し当てて引いた。
 すると、膜はあっけなく破裂してしまった。
「雹が降って来たら死んじゃいそうね」
「うっ……」
「もう百万回も言ったけど、何度でも言うわ。あらゆる事態を想定して。外に出たら、私達にはこの船しかないのよ。援護も救援もないの。海の生き物も天候も味方じゃないわ。もし仮に、生き残ってる人が他にいたとしても、その人達だって敵かもしれない」
「で、ですが……強度を上げるとその分使用者への負担が……」
「そこを何とかするのがあなた達の腕の見せ所でしょ! 泣き言いってる暇があるなら、妙案の一つでも出しなさい!」
「姫、落ち着いて……所長と約束したでしょう」
 ベルティルデに小声で諭され、ルースは仕方なく口を閉ざした。
 その隙間にできた沈黙に、コタロウが少し遠慮がちに何の魔法具なのか尋ねた。
「簡単に言うと、ここを覆っている障壁と同じものよ」
 答えたのは、すまし顔のルースだった。
「嵐の時の仕事が少しでも安全になるようにね。他にも、船の修理が必要になった時、そこが海の中でも部分的に膜の中に納めてしまえばやりやすいでしょ」
「なるほどね。でも、船全体を障壁で覆ったら、船、どうなっちゃうんだろう。球形なんだよね。膜は海水ごと張られるの? それとも、装置を中心に海水や雨とかを押し出すように張られるの?」
 技師はハッとした。
 ルースがじとっとした目を向ける。
「どうなの?」
「……考えてきます……」
 ヨロヨロと技師は去っていった。
「余計なこと言っちゃったかなぁ」
「いいえ、良い指摘だったわ」
「ところで……この船、帆船みたいだけど魔法具の動力なんかは積んでないの?」
「あるわよ。そっちはもう問題ないの。問題なのは安全面なのよ。失敗は、そのまま死ぬことだから」
「それは困るなぁ。いつか行ってみたいんだよね……故郷や今までに訪れたところにさ。水没してるかもしれないけど」
「海の上、いったいどうなってるのかしらね」
 ルースが上を見上げると、コタロウもベルティルデも空を仰ぎ見て外の世界に思いを馳せた。

 マジェリア・カンナイは性別がばれない程度に動きやすい服装で、今日も働きに来ていた。
 最初にやるのは掃除だ。
 風を操るとあっという間に軽いゴミが隅に追いやられる。
 後は箒で集めてゴミ袋に詰め込んだ。
 さらに今日は、もう少し重いものも試してみようと考えていた。
 そこで目を付けたのが、木材を運んでいる労働者だ。
 ちょうど近くを通りかかろうとしている人に声をかけた。
「あの、すみません」
「ん? ああ、掃除のお嬢ちゃんか。いつもありがとな」
「いえ……。あのですね、今日は木材運びのお手伝いもしたいと思っているんです」
「何だって? ……そいつは賛成できねぇなぁ」
 男はマジェリアの華奢な体格を見て反対した。
「その、魔法でお力になれたらと」
「例の風の魔法か? そんなことできるのか?」
「やってみないとわかりませんけど……」
「ちょっと試してみろよ。うまくできたら所長に話してみようぜ」
 興味を持ったのか、男は担いでいた木材を地面に下ろした。
 男が離れると、マジェリアは風を起こし、木材を浮かせようとした。
「……ん? あ、あれ?」
 風の威力よりも木材のほうが重かったようだ。
「ん……難しそうだな。これならどうだ?」
 男は木材の片側を持ち上げてみた。
 少しは浮いたようだが、どこかへ運ぶことは難しそうだ。それに、とても疲れてしまった。
「もっと軽いものならいけそうかな……おい、大丈夫か?」
「だいじょうぶ、です……」
「少し休め。なぁ、無理に重いものを運ぼうとしなくたっていいんだぜ」
「でも、私は……きちんと、働きたいのです……ここの、一員として」
「そうかい。そうだなぁ……魔法は使わないかもしれねぇが、塗装の仕事なんてどうだ?」
「塗装……」
 マジェリアが視線を巡らせると、ちょうどその作業をしているコタロウの姿が目に入った。
 根気がいりそうだが、力仕事ではなさそうだ。
 それと、ルースとベルティルデ。
 ベルティルデはたまたまこちらを見ていて、マジェリアと目が合うと微笑み、会釈をした。
「あーあ、姫さん今日も来てたのか……やれやれ」
「やはり、緊張しますか?」
「緊張っつーか、正直、イラつくな。そもそも貴族っつーもんじたいが……っと、わりぃ。あんたのことじゃねぇんだ。貴族もいろいろだってのはわかってるつもりだ。伯爵も俺達に理解のある人だしな」
 それから男は、赤ひげが開いた宴のことを話した。
「姫さんにはいつか言ってやりてぇことがあるんだ」
 こちらに背を向けているルースを苦々し気に見る男を見て、労働者の不満の元はルースなのだとマジェリアは認識した。

◆第五章 不満分子
 港町の空気が悪くなってきていることは、ユリア・ジグモンディも気づいていた。
 みんな、不安なのだ。
 ユリアもその気持ちはわかるが、彼女には騎士として民間人を守らなくてはならないという使命感もあった。
 そのためユリアは今日もピカピカに磨いた騎士の鎧と剣を身に着け、港町の見回りをしている。
 港町の人達に安心感を与えるようにゆったりとした歩調で歩きながら、すれ違う人と挨拶を交わしていく。
 人々にはまだ笑顔があった。
 その時、喧嘩だ、と騒ぐ声が聞こえてきた。
 声がしたほうへ急いで駆けつけると、路地の入口付近に人だかりができていた。
「すみません、通してください」
 鎧姿のユリアに気づくと、人々は道を開けた。
 そこでは、十代後半の若者が三十前後の男と睨み合っていた。
 二人の周りには、うめき声をあげながら転がっている男達が数人。
 喧嘩の理由はわからないし、どちらに非があるのかもわからないが、ユリアはこれ以上双方が怪我を負う前に止めることにした。
「双方とも、落ち着いてください。少し離れて」
 ユリアの声は静かだったが、二人の男の気を引くには充分だった。
 三十前後の男がいら立った目でユリアを睨む。
「チッ。騎士かよ。めんどくせぇ……。てめぇには関係ねぇ、引っ込んでろ」
「そうだ、これは俺達の問題だ」
「もうおやめなさい。終わりにするのです」
「うるせぇって言ってんだろ!」
 いきり立った三十前後の男がユリアに殴りかかった。
 怒りで我を忘れた男の動きは単純で、ユリアはかわすと同時にその腕を取り、捩じるようにして地面に押さえつけた。
「これ以上騒ぎを続けると、詰所に連行しますよ」
「くそがっ!」
 男がなおも暴れようとするため、ユリアは仕方なく彼を気絶させた。
 ため息をついて立ち上がり、もう一人の若い男のほうを見る。
 こちらは少しは気を静めたようだ。
 だからユリアは喧嘩の事情を聞いてみた。
 若い男──セレイナ・アシュナータは苦々しく口元を歪めて話し出した。
「造船所で水煙草を売った後、ふらっとこっちに来たんだ」
 セレイナの故郷では、煙草と言えば水煙草が主流だった。
 ここでも水煙草は少数だが所持している人がいた。
 そういう人に、喫煙具は無理だが好みの香りをつけた煙草を売っていたのだ。もっとも、香りの元になるものや煙草の入手がだんだん難しくなってきているのだが。
「少し歩いてたら、そこの男達が売ってくれって言ってきてね……」
 しかし、セレイナは彼らからは何となく嫌な感じを覚えていた。
「代金を言ったら、ツケにしてくれって言うんだ。相手にもよるけど、この人達にツケで売ったらいけないと思って、現金だけだと言ったら急に私を脅してきたんだ」
「それで喧嘩になったのですね」
 話すうちにセレイナの気持ちが平常に戻ったことをユリアは察した。
 言葉が穏やかになり、何より一人称が変わっていた。
 少々喧嘩っ早いところがあっても、心根はまっすぐなのかもしれない。
「事情はわかりました。怪我の手当てをしましょう」
「これくらい、平気だよ」
「確かに、あなたよりもそこに倒れている人達のほうが重傷ですね」
「怖そうなおっさん達に囲まれて必死だったんで」
 セレイナは気まずそうに目をそらした。
 その時、
「怪我人がいるというのはここか?」
 白衣の中年男性が大股に進み出てきた。町医者の一人だ。誰かが知らせたのだろう。
 そして、目の前に広がる惨状に顔を歪める。
 彼の後ろには、重そうな鞄を持ったプティ・シナバーローズの姿があった。
 プティは特に表情を変えることはなかったが、その目には呆れの色があった。
 彼はこの医者のところで手伝いをしていたため、一緒についてくることになったのだ。
 プティは、男達の怪我の具合を診る医者の傍らにしゃがみ、いつでも医者の要求に応えられるようにした。
 そのうち一人が意識を取り戻した。
 目の前にいるのが医者だと気づくと、パッとその手を振り払う。
「手当てなんざいらねぇよ! いくら請求されるかわかったもんじゃねぇ。言っとくがな、これはお前らが勝手にやったことだ。カネは払わねぇからな」
「払いたくても払えないんでしょう」
 嫌味っぽく言ったセレイナに、男は目を吊り上げた。
「だいたいなぁ、仕事がねぇのに税金ばっか高いってのは何なんだよ! 一部の連中だけ生き残ればいいってのか? 俺はただで殺されたりしねぇからな。……おい、お前ら起きろ!」
 男は仲間達を乱暴に起こすと、彼らと支え合うようにして去って行った。
 プティは重いため息を吐いた。
「俺だって、今の税率に全部納得してるわけじゃねぇよ」
 医者と共に往診をしていた間も、患者から税に関する愚痴は聞かされた。
 これではまるで、生かさず殺さずではないか、と。
 それでもほとんどの人が税の意味を受け入れている。どこに使われているのかわかっているからだ。おそらく許せないのは、噂に聞くカネにだらしない一部の貴族の存在だろう。
 顔を上げた時、人だかりの中に岩神あづまとリルダの顔を見つけた。
 リルダは沈痛な面持ちで立ち尽くしている。
 慰めるわけではないが、プティはつい口を開いた。
「あ……姫さんみたいに働いてるなら、まだわかるよ。重要な魔術師だから金払うんであって、姫だからとは思ってねぇ」
「うん……そうね。でも……」
 リルダはふらりと背を向けて歩いて行ってしまった。
 あまり思い詰めなければいいけれど、とプティは心配そうにその背を見ていた。
☆  ☆  ☆


 その日の晩もあづまが切り盛りする居酒屋兼飯処『真砂』には、さまざまな客が訪れていた。
 常連もいれば初めての客もいる。また、時折ふらりとやって来る客もいて、それぞれ酒や料理で一日の疲れを癒していた。
 その客の中に、アンセル・アリンガムという四十歳くらいの男性がいた。ウォテュラ王国の辺境の騎士だったそうだ。騎士身分を返上した後、各地を旅して回り、この地を訪れた時に大洪水にあってしまったのだと、彼の友人達と話しているのをあづまは聞いたことがあった。
 アンセルは控えめで人当たりが良いので、港町の人ともすぐに打ち解けることができていた。
 なかなか器用な男で、今日はある農家の家の屋根を修理してきたらしい。
 そのアンセルを特に慕っている若者がいる。
 ルスタン・チチュキンという。
 大洪水の時、たまたま伯爵領に来ていたためすべてを失い、途方に暮れていたところをある農家の老夫婦が世話をしてくれることになったのだ。
 縁もゆかりもないこの老夫婦に助けられたルスタンは、少しでも恩返しをしようと日中は畑仕事を手伝っている。
 今晩もアンセルの横にはルスタンがいる。他にも造船所や港町で働いている人が同じテーブルを囲んでいた。
 その中の一人がルスタンに話しかけた。
「よぅ、畑のほうはどんな具合だ? 少しは収穫量は増えそうか?」
「どうだろうな。……どうせ、どんだけ取れたって半分は持ってかれちまうんだ。貴族連中なんてそんなにいねぇのに、何でこんなに取り上げられなきゃならねぇんだか」
 ルスタンの憤りの裏には、自分を助けてくれた老夫婦への思いがある。自分の空腹は我慢できても、彼らが手元に残ったわずかな蓄えにため息を吐く姿を見るのはやりきれなかった。
 そんな彼をアンセルが宥めた。
「集められた食糧は保存食用に加工されるんだ。箱船では食糧の生産はできないからな」
「わかってるよ……わかってる。でも、こっそり自分の懐に入れてる奴だっているんじゃないのか?」
「いそうだよな、そういうの」
 だいぶ酒の入った一人が赤い顔をして頷いた。
「一番怪しいのは伯爵だろ。姫様や貴族達を館に置いているのを理由に溜め込んでるかもしれねぇ」
「……伯爵は、油断ならないネギ」
 唐突に、ヨレヨレ白衣の女性──Drカーモネーギーが割り込んできた。
 もっとも、ここではこういったことは珍しくないので、自然と彼女の分の席が作られる。
 Drカーモネーギーは、造船所でアシルに直談判した時のことを話した。
「ああ、そのことで騒いでたのか」
 造船所で働く男が納得した。
「少し待ってほしいなんて言ってたネギが……単に吾輩を追い払う口実だったんじゃないかと疑ってるネギ」
 あの日から数日が過ぎているので、Drカーモネーギーの中に疑心が芽生えてきていたのだ。
「みんな、今日は少し飲み過ぎのようだ」
 あまり不穏な方向へ行く前に抑えようと、アンセルは声を落ち着けて友人達をたしなめた。
 しかし、一度出てしまった不満を急に引っ込めるのは難しく……。
「アンセル、あんたあの館で働いてたよな。実際のとこ、どうなんだ? 不当に溜め込んでるのか?」
 一斉に注目されたアンセルは困ったようにため息を吐いた。
「そうだな……館の倉庫にはそうとうな食糧が保管されている。これを少しでも分け与えることはできないのかと、思ったこともある」
 とたん、テーブルに剣呑な空気が漂った。
「まさか、伯爵は……側近や貴族達を連れて箱船で逃げるつもりじゃねぇだろうな……」
「それって、俺らは置き去りってことかよ」
「ったりめーだろ。増えたらその分てめぇの取り分が減るからな」
 彼らは互いに目配せしつつ、次の行動の確認をしあった。
 と、そこにあづまが現れた。
「あいたお皿、片付けますね」
 そして、声を潜めて言う。
「内緒話なら、もう少し声を落としてくださいね。誰が聞いているか、わかりませんよ……」
 ハッとした彼らがあづまを睨む。
「あんた、聞いて……」
「不満を言うのは自由です。ですが、ここには楽しむために来ている人もいること、忘れないでくださいね」
 あづまは疑いの目を微笑みで躱すと、お盆に皿を集めて去って行った。
 アンセルはホッと息を吐いた。
 この時は、話はここでうやむやになったと思われたが、後になってもっと大きな憤りとなって彼らを突き動かしていくことになる。
 あづまは、忙しく店内を回りながら、いくつかのテーブルを気にかけていた。
 現状への愚痴を吐き出している者が、しだいに増えている。
 中でも過激な発言をしているテーブルの面々に注意しておいた。
 その中には明日にでも暴れ出しそうな者もいる。
 あづまはあえて店から出さずに、黙認するような態度をとっていた。
 下手をすればここがそういった者達の巣窟になり、あづま自身も騎士団から目を付けられる可能性もある。
 けれど、今日も路地での複数人による喧嘩を見て、考え込んでしまったリルダのために、少しでも力になれないかと思ったのだ。
 ──このままじゃ、いけない。
 苦しそうに落とされた小さなリルダの声が、今もあづまの耳に残っていた。

◆エピローグ
 港町は、ピリピリとした緊張感に包まれていた。
 息苦しい現状に耐えかねた住民の一部が、リルダに訴えてきたのだ。
「これから税の引き下げを要求しに、伯爵のところへ行ってくる。リルダさんを巻き込みたくはない。自分達が勝手に起こしたことと承知してほしい」
 彼らなりに世話になっているリルダに義理を通したつもりだろうけれど、リルダが承知するはずもなく。
 その中に、いつも落ち着いた言動でリルダを助けてくれているアンセルの姿を見つけ、リルダは愕然とした。
「アンセル、あなたまで……」
「このまま押さえつけていたら、もっと大きな事件になってしまうだろう」
 ガス抜きをさせようというのだろうか?
「ここのことは頼む。……彼らのことは、私が」
 そう言い残して、アンセルは行ってしまった。
 椅子に座り込んだリルダを、急に悪寒と気怠さが襲った。
 疲れが出たのかと思ったが、しばらくして町に出た時にそうではないことを知った。
 少し前から体調を崩す人が出てきていたようだが、ここにきて急に増えたとのことだった。
 原因はわからない。
「流行り病……? お医者さん、少ないのに……」
 リルダは頭痛に耐えながらとりあえず、動ける人を集めて各家の状況を確認したいと思った。
 特に一人暮らしや老夫婦などは心配だ。
「神殿の人達や火の魔術師達は大丈夫かしら……。それと、畑の手入れや家畜の世話を代わりにやってくれる人も探したほうがいいかな……」

 これらのことは、住民達にすぐに伝えられた。
 犠牲者を出したくない──彼らの思いはそれだけだった。


個別リアクション
なし



アクション指針 ・税の引き下げ要求の集団についていく(伯爵に一言言いたい/集団が暴徒化しないように見張る) ・騎士としての務めを果たす(領主の館の警備/港町でよからぬ連中が出ないか見回り) ・医術を知る者として(医者の手伝いも含める) ・体調不良の農家を手伝う ・その他(各家の確認/自分も寝込んだ、助けて、など)


こんにちは、マスターの冷泉です。
周辺では桃が綺麗に咲いています。 花屋にクリスマスローズが売られてましたが、今頃の花だったのかな……? 何とも言えない、心を落ち着かせてくれる色の花です。 第一回へのご参加ありがとうございました! なお、一部の執筆を川岸マスターが担当しました。 次回のアクションについてですが、「風邪気味である」「具合が悪いのを押して働いている」という程度でしたら盛り込んでいただいてかまいません。 もちろん、健康優良児も大歓迎です。 第2回のメインシナリオ参加チケットの販売は3月22日(水)から3月28日(火)3月29日(水)を予定しております。 アクションの締切は3月29日(水)3月30日(木)の予定です。 詳しい日程につきましては、公式サイトお知らせ(ツイッター)や、メルマガでご確認くださいませ。 ※当初の予定より、1日延長となりました。 次回もよろしくお願いします。