メインシナリオ/グランド第5回オープニング

 

『あなたのための希望のうた 第5話』

 

      『箱船出航後の障壁範囲予想図』
      『箱船出航後の障壁範囲予想図』

◆伯爵からの通達

 その日、伯爵からの通達がリルダ・サラインから港町の人達へ伝えられた。

 内容は、箱船出航時にマテオ・テーペに起こり得る事態についてだ。

 箱船を障壁の外に出すためには、一時的に障壁を弱めることになるという。

 その結果、障壁は今の範囲を維持できなくなり、箱船出航後に再び元の強度に戻される障壁の範囲は、神殿と領主の館、造船所、エーヴァカーリナ池周辺くらいだろうと予測された。障壁の予想範囲図によると、港町や魔法学校は完全に海の中だ。

 そのため、新しい住居を作らなくてはならなくなった。

「テントとかログハウスとかかな……。戸建てを作るほどの余裕は……どうかしらね」

 また、障壁の難しい調整は神殿の魔術師達による特殊な手法で行われるが、それにはここの人達の生気が糧として必要だというのだ。

「おいおい、何だよそれ……」

 集会所で港町の主だった人達の口から、呆然とした声がもれる。

 リルダも疲れた顔をしていることから、伯爵から話を聞くまで知らなかったと思われた。

 一人が小さく手を挙げて、おそるおそる聞いた。

「生気が糧って、まさか……死んだりしないですよね?」

「場合によっては死者も出るだろうと言っていたわ」

 質問者は絶句した。

 それから、また別の人が手を挙げる。

「箱船は、どのように出航するのですか?」

「魔法で船を浮かせて障壁から押し出すそうよ」

「う、浮かせて……!?」

 通常であれば海に進水、となるが、造船所はマテオ・テーペのほぼ中心地にあり、障壁際まで川があるわけでもない。

 と、ここまで考えてその住民は気が付いた。

「障壁が先に小さくなるのなら……」

 箱船出航時とその後の障壁予想範囲図をさまよっていたその人の目は、エーヴァカーリナ池を穴が開きそうなくらいに凝視していた──。

 

 この通達は瞬く間に人々に広まった。

 不安に駆られた人々の一部は造船所へ駆けつけた。

 箱船は、もう完成が見えてきている。

 そしてその大きさでは、マテオ・テーペの全住民を乗せることはとうてい不可能だった。

 

 このことは当然、自警団代表のアンセル・アリンガムから団員へ伝えられた。

「何で急にそんな話になるんですか!」

 アンセルを慕うルスタン・チチュキンは怒りもあらわにアンセルに詰め寄った。

 アンセルは彼をなだめるように、声を落ち着かせて言った。

「私達にとっては急な話でも、伯爵にとっては予定通りなのだろう」

「そんなのって……!」

「ああ。これではあんまりだ。そこで私は、ルース姫に相談してみようと思う。姫が力を貸してくれれば、伯爵ももう少し負担の少ない方法を考えてくれるかもしれない」

「あのツンケンした人が聞いてくれますかね?」

「……まずは手紙を書いてみる」

 ただし、アンセルとルースに面識はないから、普通に手紙を出しても届かない可能性がある。

 工夫をしなくてはな、とアンセルは思案した。

 

ルスタン・チチュキン   ナディア・タスカ   
ルスタン・チチュキン   ナディア・タスカ   

◆箱船出航に向けて

 リルダは、水の神殿の神殿長ナディア・タスカと魔法研究所所長のジョージ・インスに、箱船出航時の影響を少しでも小さくするための相談に訪れていた。

 まずは、と最初に口を開いたのはジョージ。

「障壁を展開、維持している魔法具の改良じゃな。これを強化できれば心強い味方になるじゃろう」

 これにはナディアも同意した。

「それから、水や食料の確保ですね。復活させた畑は中心部に多いようですが、もとからあって障壁の外に出てしまう畑も多いでしょう。水耕栽培でしたっけ? それは移動できるのでしょうか?

 簡単な地図を見ながら意見を言うナディア。

「とりあえず箱船用に保存食にして積み込む分は何とかなりそうよ。みんなの工夫のおかげで少しだけど余裕もあるわ。水耕栽培は移動できると思う。……中心部に近いところにある手付かずの荒れ畑を何とかして、新しい畑も欲しいわね。住居の問題もあるし……」

「都心部並の人口密集地になるかのう」

「あそこは高い建物もあってどうにかなっていましたが、ここにそのような建物を建てる技術の持ち主がいるでしょうか」

「その前に、そんなすごいものを建ててる時間はないわ」

 はぁ、とため息を吐くリルダ。

 不意に、ナディアが声を潜めて言った。

「最近、神殿に祈りに来る人が増えたのですが……それはいいとして、お二人とも、外を歩く時は気を付けてくださいね。あの殺人犯はまだ捕まっていませんので」

 三人は静かに頷きあった。

 

 畑も水耕栽培も、順調だった。

 また、喜ばしいことに数ヶ月後に子供が生まれる家畜もいるという。

 仲良くなった農家の人からその話を聞いたジスレーヌは、急にテンションが上がり、

「その子達のためにもがんばらなくちゃ!」

 と、張り切って畑の手入れを始めた。

 水耕栽培で育てている野菜では、レタスなど生長の早いものはもう収穫ができるくらいだ。

 そこで、収穫できる野菜を使って料理の試食会が行われることになった。

 採れる野菜は、レタス、トマト、ルッコラ、チコリ、葉大根、パセリ、バジルだ。

 その他の食材として、エーヴァカーリナ池で釣れた魚やジビエが、少量だがリルダから差し入れされるという。

 場所は集会場だ。

 食べる専門の人も歓迎ということで、港町は久しぶりに明るい雰囲気になった。

 

◆手紙

 その日の夜、領主の館の自室でウォテュラ王国の姫ルース・ツィーグラーは、一通の手紙をくしゃくしゃに握り潰した。

 傍らには、厳しい表情で近衛兵隊長サスキア・モルダーが立っている。

 サスキアは囁くように言った。

「伯爵に相談しますか?」

「……いいえ、不要よ。まずは、このアンセルという人物について調べましょう。それから、このことはベルにも黙っておくこと。いいわね?」

「……わかりました」

 唯一の侍女であるベルティルデ・バイエルにも秘密にしておくことに疑問を覚えながらも、サスキアは主の命令に頷いた。

 手紙の内容はサスキアも知らない。

 目つきの悪い青年が忍び込んできて、ルースに手紙を渡していったのだ。

 ルースはランプのところに寄ると、手紙を燃やした。

「力を貸してくれ、なんて言う奴にろくな人間はいないわ」

 暗く、憎しみに満ちた呟きに、サスキアは目を伏せた。

 五歳年下のこの姫を、哀れに思った。

 そんな彼女の心情など知らないルースは、振り向いた時にはいつも通りの澄ました顔で言った。

「明日は箱船の様子を見に行くわよ。いつものようによろしくね」

 

 

グランドシナリオ第5回 参加案内

 

スケジュール

2017年7月23日 オープニング公開

2017年7月23日 チケット販売開始(参加申し込み開始)

2017年7月30日 チケット販売終了(参加締切)

2017年7月31日 アクション締切

 

リアクションの完成は8月20日前後を予定しております。

 

アクション指針

・箱船出航後の住居について案がある

・造船所の様子を見に行く/騒ぎを静める

・試食会に参加(食べる専門も可)

・その他

 

 

◆連絡事項

・ヴァネッサ・バーネットさん

 前回のアクションに関する内容でしたら、伯爵との面会が可能です。

 

・クラムジー・カープさん

 領主の館での行動が可能です。

 伯爵やアイザックとの接触は自由です。他の貴族とも、相手が許可すれば面会ができます。

 ただし、サイド側で扱っている場所(主に館の外れにある建物)や人物に関わることはできません。

 

◆NPCの行動予定場所

・造船所

 ルース姫と侍女のベルティルデが箱船の様子を見に行きます。

 所長のフレンが二人を出迎える予定です。

 また、姫の護衛としてウォテュラ王国から共に来たサスキア率いる近衛兵隊がついてきています。

 アンセルが代表を務める自警団が、造船所の警備にあたっています。

 

・領主の館

 領主であるアシルと護衛であり騎士団長でもあるアイザックがいます。

 

・水の神殿

 神殿長ナディアと、魔法研究所所長のジョージがいます。

 

・畑&集会所

 港町のまとめ役であるリルダとジスレーヌがいます。

 

※アクションしだいで他の場所へ行くこともあるかもしれません。

 

◆マスターより

こんにちは、メインシナリオ~グランド担当の冷泉みのりです。

新規の方は、はじめまして。よろしくお願いします。

後半戦の開始です。

 

アクションについての補足です。

・箱船出航後の住居について、リルダはテントかログハウスを考えています。短時間でできるだろうというのが理由です。

こちらの案に協力していただいてもいいですし、他の考えがありましたらぜひご提案をお願いします。

・その他は、シナリオに関係することでしたら、何でもかまいません。

今まで継続してきた行動を引き続き選択するのも、もちろんOKです。

 

自警団は前半に引き続き、警備隊と連携して町の見回りを行っています。

新入団員も募集しています。

 

最終的に箱船やマテオ・テーペがどうなるかは、PCの皆さん選択にかかっています。

PCらしい全力をお待ちしています。

最後までご一緒できたら幸いです。