メインシナリオ/サイド第2回
『滅びを望む者たち 第2話』



 造船所近くの山裾に、洞窟から湧き出る温泉を利用した露天風呂と温水プールが造られてから、数週間が経った。
「それじゃ今日の練習はおしまい。さ、お風呂入るわよ~。お風呂では泳いじゃだめよ」
「はーい!」
 魔法学校生の女の子達は元気に返事をして、脱衣所へ歩いて行く。
「大丈夫よ、先生が入口でしっかり見張っててあげるからね」
 少女達の指導にあたっているのは、メリッサ・ガードナーだった。
 彼女は毎日のように、学校が終わってから訪れた魔法学校の女の子や、数少ない町の女性達を相手に水泳のコーチをしている。
 そして、その後は決まって皆で入浴タイム!
 夕方には馬車で貴族たちも訪れる。彼女達の案内と施設の掃除、それから見張り役もメリッサがレイザ・インダーから任された仕事だった。
(それにしてもレイザくん……痣フェチだったなんて!)
 服を脱ぎ、体を洗い始めた少女達を眺めながら、メリッサは思いにふける。
(痣は無理だけど刺青でも入れようかしら、蛇みたいなの。ああでも彫師なんていないわよねー)
「メリッサせんせいも一緒に入ろうよー」
「いつものように、おっぱい大きくする方法教えて!」
「ふふっ、はいはい。ちょっとまってね~」
 メリッサは水着を脱いで魅惑的な体を解放すると、少女達のもとに向っていった。


第1章 細い道の先

 前回の探検からしばらく経った休校日。
 プルクを中心とした前と同じ6人組は、再び山の中に来ていた。
 目的はと言えば、もちろん、前に探索した洞窟に再び潜ることだ。まず6人は、前回出発前に食事を摂った場所でミーティングをし始めた。
「まさか、洞窟が神殿に繋がっているなんて、びっくりしました。プルク君は大変でしたね」
 イーリャ・ハインリッヒが前回のことを振り返って、プルクの方を見て心配そうに話す。それは、神殿の倉庫に繋がっていた道でプルクが一人怒られたことを指している。
「あんなの、大したことないさ!」
 プルクが胸を叩いて大声をあげた。その顔は少し赤みがかっている。照れているのだろう。怒られ慣れてるから平気だよな! と寮生の少年から言われて、お前もな、と元気に返している様はどこか楽しそうだった。
「神殿と言えば、あの時見つけた本を見せてくれないでしょうか」
 メンバーの中では一番年上のアリス・ディーダムがイーリャに声を掛ける。イーリャは、はい、と返事をすると本を渡した。前回の探索でプルクが見つけた本はイーリャが受け取って、そのまま所持していた。
 アリスは本の内容がずっと気になっており、それで声を掛けたのだった。
 受け取るとざっと本をめくってみる。やはり、文字は見た事がないもので全く読めない。絵がついていないかと期待もしていたが、そういったものも無いようだった。
「昔使われていた日記帳でしょうか?」
「水の神殿の偉い人が書いたのかも」
 と、アリスの後ろから覗き込むように本を見ていたイーリャと大人しい方の寮生の少年が話している。
 結局、唯一分かったのは、何度も出てくる数字のような文字が規則的に書かれていることくらいだった。アリスは仕方なく、本を閉じてイーリャに返す。
「ちなみに、プルク君は何か目的があってこの探索を始めたんですか?」
 アリスは話題を変えて、プルクに質問してみる。これも気になっていたことだった。
「誰にも知られてない場所っぽかったから、何かすげぇお宝があるかもーと思って!」
 プルクは瞬時の迷いもなくそう答える。
 なんだか気が抜けてしまうような回答だが、らしいと言えばらしい台詞ではあった。
「それだけかよ!」と寮生の一人に突っ込まれて「じゅうぶんだろ!」とちょっと怒って返している様子を見て、アリスは思わず笑みがこぼれるのだった。
「そろそろ出発しないかい。遅くなると困るだろうし」
 ファルが、なおもはしゃいでいる面々を落ち着かせるようにそう話すと、皆が一斉に洞窟を振り仰いだ。
 こんな雑談も楽しいけれど、本当に楽しいのはこれからだとばかりに。
「それじゃ、準備はいいでしょうか。魔法鉱石の照明具は持ち運べるようなものが無かったんですが、お弁当も含め私は準備ばっちりですけど、みんなはどうですか?」
 アリスが続けて皆を見回しながら言うと、残りの5人は同じように強く、元気に頷いた。

 今回探索するのは分かれ道の残りの二つのうち、石で塞がれていない方の小さな道である。塞がっている道はシャベルなど大きな道具があれば石をどかせるかもしれないが、今回は無理そうだという事で意見が一致した。
 前回よりも小さな道だから、もちろん二人が横に歩ける幅はない。6人は自然と前と同じ順番で隊列を組んで進み始めた。
 しばらく雑談をしながらも歩みを続ける。
 広い方の道も長かったが、こちらの道は更に長いようだった。
 ランタンの仄かな明かりだけが周囲を照らしていて、どこまで続いているのかはよくは見えない。
「あら、ここからはちょっと立っては進めなさそうですね」
 しばらくすると、アリスが立ち止まって先を覗き込むようにした。確かにそこから先はかなり天井が低くなっていて、這っていくくらいでないと進めなさそうだった。
「ちょっときついかもしれないですが……でも今回は大丈夫です。ちゃんとさらしをきつめに巻いてきてますし」
 そう言って胸を叩いてちょっと自慢げなにするアリス。お嬢様といった雰囲気のアリスも、洞窟探検でちょっとテンションが上がっている様子だった。
 そして、その様子を見て男性陣が少し所在なさげに視線を泳がせた。特にプルクたち寮生三人は特にうつむいて顔を赤くしている。アリスはそれには気付かず、ちょっとした沈黙が流れたのを不思議そうにしている。
 無自覚というのは罪作りなもののようだった。
 それはそれとして、気を取り直して6人は隊列はそのままに這って進む。
 這って進むのは意外と身体の負担が大きい。数分も進むと、身体の疲労が目に見えて溜まってくるのが分かる。
 しかし、狭い道はそれほ長くは続かなかった。やがて急に天井が高くなり、広間のようになっている場所に出る。窮屈な思いで進んでいた皆が、思い思いに身体を伸ばして一息をつく。
 すると誰からともなく、休憩しようという話があがった。
「じゃあ、ご飯にしましょう、今日は最初に食べてなかったわけだし」
 それに対してのイーリャのその提案に、異論を挟む者はいなかった。
 輪になって座り、思い思いにお弁当を広げていく。
 そして、いただきます、の声も出さず、あいも変わらずプルクが人のお弁当にちょっかいを出そうとする。
 今回のターゲットはアリスのサンドイッチだった。前と違って、そーっと近づいて手を伸ばそうとする。顔はいたずらっ子のそれだ。
「イヤーっ!? 何っ!?」
 それに対するようにアリスから悲鳴があがった。
 プルクが慌てて、アリスのは今回は狙っていないと言おうとする。しかしよく見ると、アリスは必死に首を振りながら自分の座る場所のすぐ近くを指差していた。
 そこには、何か小さな影が蠢いていた。
「ああ、洞窟でよく見る節足動物の一種かな。別に害はないと思う」
 そう言いながら横から手を出したファルがその何かをつまみ上げる。
 それはフナムシのような生き物だった。ひっ、という声がイーリャからも出るが、ファルはいたって平気なようで、少し離れたところでその生き物を逃がしてやる。
 こういった生き物は地属性であるファル自身の領域でもあるので、できるだけ害したくないのだった。
「お前、よく触れるな……」
 カブトムシなどは平気なプルクや寮生たちも、ムカデやフナムシの類いは得意ではないらしくちょっと引き気味にその様子を見ている。
「動物が少ないとはいえ人工的な洞窟ではないみたいかな」
「確かに、壁に絵や文字があるんじゃないかしらと期待したけれど、こちらの道にもそんなものは見当たらないですね」
 ファルが呟くと、気を取り直したアリスもそれに同意するように返す。
 そのやり取りを聞いて、ちょっと期待が外れたかな、といった雰囲気が全員に流れる。
「そろそろ……戻らないですか?」
 その雰囲気に流されるかのように、寮生の一人がそう呟く。しかし、即座にプルクがその背中を強く叩いた。
「元気出せよ! まだ時間はあるじゃんか!」
 プルクの元気な声に、アリスもイーリャも同意するように強く頷く。
「それに、今日はこっそり出てきたけど、治安が悪くなってきたから子供同士で出かけるのはダメ、って言われてるんだぞ」
 もう一人の寮生がそう続けた。ファルが「なら、もっと楽しんでいこう」と寮生たちに語りかけるように話す。
 そして相談の結果、結局、時間の許す限り進もう、ということになったのだった。

 そこからも一行はしばらく歩き続けた。
 そしてそれは、イーリャがそろそろ障壁外に出てしまうのではとも思ってしまう頃だった。
「あー……ここで探検は終わりかもしれないです」
 先頭を進むアリスが残念そうな口ぶりで後ろの皆に伝える。
 身体を横向きにして皆が先を見えるようにして、指を差す。
 そこには、壁があった。
 道は、そこで行き止まりになっているのだった。
「そうだ、風を起こして空気が抜けるところがあるか調べられるかもしれません。調べてみます」
 6人の間に広がった沈黙を破ってイーリャが声を上げ、魔法を使うために集中し始めた。それは、少しでもみんなの気分を上げようという気持ちもあっての行動だった。
 しかし、結果は芳しくなかった。風は抜けることなく、ただただ自分たちの来た方に返っていくのみだった。
「ちょっと辺りを調べてみませんか?」
 アリスが項垂れかかったイーリャを励ますように言うと、ファルが「地磁気を使って何か感じ取れるかもしれない」と早速動き出す。それを見て、プルク達寮生も辺りの壁を探り始めた。
 せっかくここまで来たんだから。
 そんな共通の思いが6人たちの心の中にあった。ただただ無心に、辺りを調べていく。
「……ん?」
「どうかしましたか?」
 一言、不思議そうにつぶやいたファルにアリスが声を掛ける。だがファルは集中しているのか反応はなく、ひたすら同じところを叩いたり探ったりしていた。
「ここ、ちょっと魔法で掘り返せないか?」
 ファルが、寮生の一人に呼びかける。ファルも地属性なのだが、独学で覚えた魔法は踊りや舞いといった形で発揮させるもののため、直接土を掘り返すといったことは不得手なのだった。
 ここでいいですか? と確認を取りながら寮生の子が壁を少しだけ掘り返す。その辺りは比較的柔らかかったのか、穴が簡単に開いた。頷いたファルがその中に手を突っ込んで、力を込める。
 いつの間にか、イーリャとプルクもその様子を固唾を飲んで見守っていた。
 ほどなく、ファルは腕を引き抜いた。そしてそのまま、見つめる皆に差し出すようにその掌に乗せられたものを見せる。

 そこには、ファルのこぶし大程度の水晶のような石があった。
 プルクの、そしてそれに続いて他の皆の歓声があがる。
 そうしてひとしきり騒いだ後、時間も迫ってきていることもあり、6人は帰途についた。
 洞窟の入口まで戻る帰り道はやはり長かったけれど、行き以上に話題が尽きない、楽しい帰り道となった。

*  *  *


 寮に戻ったプルク達は、プルクの部屋に集まって作戦会議を始めた。
「次は、お弁当作ってくれなそうだよなー。寮母のお姉さん、怒らせると怖いもんね」
「やっぱりみんなで行くの、無理だよね。あと、本と石について調べたいな」
「本はさ、頭のいい人なら読めるんじゃないかな、昔の文字みたいだし」
「石は……ん?」
 プルクは石から何か不思議な感じがすることに気付いた。
 温かいような、じわりと力があふれ出てくるような……。
「これさ、もしかして魔法の石じゃないか?」
「魔法の石? あ、魔法鉱石! 授業で習ったことあるよね」
「だとしたら、すげえお宝だよな。先生に聞いてみるか、没収しなそーな先生」
「でも、ホントに魔法鉱石だったら、どこにあったのって聞かれちゃうよ?」
「んー、そうだな。それなら今度の探索の時まで聞くのはお預けだ! 最後の道のお宝も俺達がゲットするんだッ」
 治安が悪化しているため、子供だけで出かけることはもうできそうもなかった。
 今度はこっそり抜け出して洞窟探索に行くメンバーと、手に入れたお宝を調べるメンバーに分かれることになりそうだ。


第2章 警戒

 魔法学校近くの森の中――。
 黒いジャケットに、黒のブーツ。
 濃いサングラスをした男が、佇んでいた。
 背には燃え盛る鳳凰の刺繍。その尾は手首までのびている。
 肘の辺りまで腕まくりをすると、男は歌を口遊む。
「トンガル事がボーイの~、たった1つのくんしょおだって、このハートに、信じて生きてきたァ~」
 そして男……というか、ツッパリボーイというか、コギャングというか、ただのコスプレしたお子さまにしか見えないヴォルク・ガムザトハノフは、ステップを踏みながらパッチンと指を鳴らした。
 そう、魔法学校生の彼は今日も一人、人知れず、誰にも相手にされ……いや、孤高に修行に励んでいた。
「風の刃は学校でも教わったし、ハッキリ言って難しくないしメジャーだから、新魔法」
 得意気に言うが、勿論魔法学校では彼のような危険極まりない子どもに、殺傷能力のある魔法を教えたりはしない(超重要)
 ひとえに毎日の孤独な熱血修行と類まれなる厨二力という名の魔力が、全てを理解させたのだ。
 ステップを踏み踊りながら指を弾き、風の刃を起こす。
 刃はシュンと飛んで、木に幹に小さな傷をつけた。
「よし、次のステップだ」
 小さな音を増幅させて、衝撃派にしようというのだ。
 それは一般人に備わった風魔法の能力だけでは不可能な技である。だけれど、ヴォルクは実現できるような気がしていた子供ゆえに。そう子供の想像力は無限の可能性を秘めているのだ。
「こうだっ!」
 パチンッ。指を鳴らして、振動を増幅させようとする。地面に向かって放つが、地面に衝撃が伝わることはない。
 それを何度も何度も繰り返していたヴォルクは、ふとした拍子に指を鳴らし忘れ、一点に集めた風の力をただ放出していた。

 ドーン、バキバキバキッ

「………………………………………」
 大地が揺れて、体が浮き、木が折れた……。
「いや違う。これは俺が求めた新技ではなぁいッ!」
 再びステップを踏み、ヴォルクがダンスを始めたその時。
「グォォォォォォォルクゥゥゥーーーー!」
 森に雄叫びが響き、ヴォルクの小さな体が震え上がった。
「クォォォォォォォォラァァァァァァ! こんなところにいやがったかァァァ!! ガキの一人遊びは禁止だと言っただろうがァァァ!! 治安が悪化してんだとよォォォォォ!」
 鬼の形相で現れたのは、ヴォルクの天敵、鬼ババァこと寮母の(自称)お姉さんだ。
「まさか貴様がこの木ィ、折りやがったのかァ!?」
「ち、違うよ。勝手に折れてたんだよ。多分人食いシロアリのせいだね! フッ、ならばこの俺の新魔法衝げ……」
「なわけねぇだろうがァァァ! しばらく反省室はいってろや、コルァ!」
「あっ、ああっ、いた、いたいー」
 ぐあしっと寮母の(自称)お姉さんは、ヴォルクの首根っこを掴むと、引きづりながら寮に連れて帰るのだった。

*  *  *


 治安維持活動に協力をしているエイディン・バルドバルは、魔法学校へも足を運び、防犯の取り組みへの協力を持ちかけていた。
「不審火や不審者の影も見え隠れする中、どこも人手不足で地域の安全が守れているとは言い難い。学徒の本分でないことは重々承知しているが平時とは言えない今、各々が防犯意識を持ち、何かの際に自分の安全を守れるような心がけが必要だと思う」
 港町の子供の大半は洪水前に避難したため、障壁内に残っている子供の多くは、ここの寮で暮らしている魔法学校生であった。
 エイディンには魔法のことは良く分からないが、魔法が集中を要するものだということは知っている。突然襲い掛かられた時に、咄嗟に放てるものではないはずだ。
 エイディンは治安維持活動の一環として、有事の際の避難訓練と、自分による防犯パトロールを提案していた。
 しかしエイディンは特に肩書きもなく、魔法について何も知らず、更には子供を怖がらせる外見をしていたため、当初魔法学校側は彼の来訪を好ましく思わなかった。
 たが、同じように治安維持活動に動いている魔法学校生、ロビン・ブルースターが、彼の来訪を喜び、後押ししてくれたこともあり、初めて訪れた日からおよそ半月後にエイディンの提案は魔法学校に受け入れ、学生寮の子供達と話をする機会を与えられた。
「どんな状況であろうとも落ち着いて相手を知り、自分を知り、補い合えば必ず対処できる。知り、学び、実践することは学徒の本分だろう? 学び舎のために、友のために、どうか力を貸してほしい」
 魔法学校にエイディンのような外見の大人はほとんどいないため、生徒達は緊張した面持ちで、エイディンの話を聞いた。
 そして、その必要性をあまり理解していなかったが、初めての避難訓練を自分達だけで行ったのだった。

「霧衣(Mistform)って言うんですが、どうでしょう?」
 そんな折、ロビンは教師のレイザ・インダーに、試作段階の水魔法を見てもらっていた。
 職員室の置物が薄い霧に包まれている。
 人や物の周囲に空気中の水分を集めて霧状に纏わせることで、火を弱めて対象を守ろうというのだ。
「良い発想だ」
「ただ被害を聞くに風魔法の使い手もいるようですし、風でブーストされた火を使われると厳しいのでもう少し対抗手段を練りたいのですが、何かアドバイスを頂きたく」
 ロビンは犯罪者逃走の事件についての対抗手段を得る為に、レイザのもとに訪れたのだ。
「アドバイスといってもな……水で火を防ごうというのなら、火を消せるだけの水を集めて対抗するしかない。お前のこの技は、霧を纏わせている間中、集中していなければならない。確かにダメージを減らすことはできるが、その間反撃は出来ないし、第二第三の攻撃はまともに受けてしまう可能性がある」
「では、探知は出来ないものでしょうか? 予め術者の位置が分かっていたのなら、その方向の霧を厚くすることができるのですが。そして逆探知の方法も」
「んー……」
 レイザは眉間に皺を寄せて考え込む。考えているというよりも、話すかどうか迷っている。そんな風にも見えた。
「火の魔法は燃え広がるせいで魔法の起点が解りづらいですが、着火点が一番魔力の痕跡が強く残っているはず。強い魔力の持ち主ならそれはより顕著ですよね。それならそこから魔力を辿って市井に紛れ込んでる犯罪者や協力者、アジトの目星をつけることは可能でしょうか?」
「探知、逆探知も発生直後なら出来なくはないんだが、それにはスキルと才能か道具が必要だ」
「僕には無理でしょうか?」
 ロビンの問いに、ため息をつきつつ、レイザは言う。
「常人は5年や10年の修行で出来るようにはならない。それを可能とする道具は……具体的に誰が持っているとは言えないが、持っている人物から借り受ければ、お前でも逆探知は出来るようになるかもしれない。発生直後ならな」
「それ……」
「ただ」
 口を開きかけたロビンの言葉を遮り、レイザは続けた。
「お前に出来ることなら、お前以上の術者は騎士団に沢山いる。だから、騎士団に任せておけ。少なくても学生が学業の傍らに出来ることじゃない」
 だけれど騎士団員の人数は少なく、手一杯なようなのだ。
 だから、自分に出来るのなら……誰かを守るための、力になれるのなら――。
「ロビン。もっとわかりやすく言うと、危険だから首を突っ込みすぎるな」
 真剣な面持ちのロビンを案じるように、レイザは苦笑しながら言った。

 

*  *  *


 港町にある騎士団詰所に、体に生々しい傷跡を残した男が訪れていた。
 リベル・オウス――先の貴族令嬢誘拐事件の現場で巻き込まれた外国人の薬売りだ。
「事件の時、現場にいたというのは本当か?」
 対応に訪れた警備隊隊長、バート・カスタルはリベルの姿に眉根を寄せた。
 彼は包帯を巻いておらず、火傷の跡と切り傷を露にしていた。
「ああ。すぐに来れなかった理由は、見ればわかるよな」
「そうだな。無事でよかった」
 簡素な応接室で2人は向かい合って腰かける。
「あの日のことだが……」
 リベルは事件当日、自分が見聞きしたことをひとつ残らずバートへと話していく。
 領主の館から造船所に続く道で、騒ぎを耳にした自分はすぐに駆けつけ、馬車を襲っていた男に、香辛料を詰めた玉を投げつけた。
 続いて、ボーラを投げつけ拘束を試みたが、突風……恐らくは風の魔法により手元が狂い、狙いが外れてしまった。
 直後に馬車、そして周囲の森も激しい炎に包まれた。
『女は連れて行く。男は殺せ』
 そんな男の声が響き、風の刃が巻い飛んだ。
「犯人は少なくても4人。貴族の女の子を拘束した男、馬車の近くにいた男、それから火の術者、風の術者。……で、容疑者を捕まえたと聞いてるが、どこにいる?」
「容疑者は風魔法の使い手だ。今は領主の館にある留置室いる」
「奴らが貴重な戦力を使い捨てるわけねえから多分シロだと思うが、犯罪者……特に魔術師をどう扱ってるか気になるんだよ」
 バートはそのリベルの言葉に何も答えなかった。
「それで、あんたはこの騒動を起こしてる奴らの目的はなんだと思う? 騎士団としてじゃなくていい、個人見解でいいから聞かせてくれ」
「ここ数日の間に、攫われた少女――シャンティア・グティスマーレさんの衣服が障壁内の様々な場所で発見された。だが、他には何も残されておらず、犯行声明も出ていない。愉快犯のようでもない……正直この事件についてはさっぱりわからない」
「そうか……何も要求してこないってことは、騎士団の戦力分散を狙ってるってことはないか?」
 各地で暴れて戦力分散及び囚人の居場所特定。そして奪還。その後になんらかの要求をしてくるのではないかと、リベルは予想していた。
「ああ、そうだろうな。ただ、犯罪者の収容所については公表はしていないが、特に隠してない。一部の重犯罪者を除き、面会を求められたら応じているし、場所を訪ねられれば話してもいる」
「収容してるとこは沢山あるんだろ? 目的の人物がどこにいるのか、確かめようとしているとか」
「目的の人物が1人なら、人質交換を要求してきてもいいはずだ。ただ……どちらにしろ、この空間から自分達だけで逃げ延びることなんて出来やしないのに」
 バートとリベルはそのまま深く考え込む。
「隊長! 展望台の近くから服の切れ端が発見されました」
 突如若い騎士団員が駆け込んできた。
「付近の探索を。だが、探索に当たるのは1人だけでいい。他は持ち場を離れるな!」
 指示を出しながらバートは立ち上がる。
「情報の提供感謝する。知ってのとおり人手が足りない。現場でもう少し詳しい話を聞きたい、共に来てくれると助かるんだが」
「ああ、傷がもう少し癒え次第、情報提供や手助けをする」
「いや今すぐだ。確かにお前は重傷だが、動いても死ぬほどじゃない。気合で痛みをふっとばせ! いくぞッ」
「……は? あ※◇☆!▼*!!!!?」
 バートに強引に手を引っぱられ、リベルの身体に引き裂かれるんじゃないかというほどの激痛が走った。
(畜生、あいつらにこの痛み、数十倍にして返してやる……!)
 リベルは更なる決意を重ねるのだった。

 

*  *  *


 サクラ・アマツキは、魔法学校の休校日や授業を終えた後、騎士団に協力し、施設の見回りに参加していた。
 集団での見回りの時間以外も、サクラは町の中を歩き回って、雑貨屋で購入した地図に、放火後に犯人が逃げ道として使いそうな道をマークしていた。
 細い路地。森へと抜ける道、けもの道へと続く道。
 町中を歩き回り、全ての道をしっかりと地図と自分の頭の中に叩き込んでいた。
 そしてその日の夕方。町の人たちと集団で見回りを行っている時だった。
「南の障壁よりの倉庫と、北の空き家から出火した! 応援を頼む! 繰り返す、南の障壁よりの倉庫と、北の空き家から出火した! 応援を頼む!」
 町の男性が拡声器をもちいて呼びかけている。
「2か所から……!?」
 倉庫には確か犯罪者が収容されていたはずだ。
 サクラは迷わず倉庫の方へと走った。

 少し前。
 ウィリアムは普通に町の住民として、町の中を歩いていた。
 彼も過去に、犯罪者への食事の提供を手伝ったことがある。
 その倉庫に、障壁が迫っていることも知っていた。
 見回りの人々が付近を通り過ぎて少ししてから、北の方から煙が上がる。
 それを合図に、ウィリアムと潜んでいた仲間は倉庫へと走った。
 ウィリアムはナイフを力任せに、鍵に叩き込む。
 その彼の手に仲間による風の力が加えられる。
 倉庫の鍵がナイフの刃と共にはじけ飛ぶ。ナイフはあと4本持ってきている。
 扉をあけ放ち、ウィリアムたちは中の木製のドアを体当たりで破壊する。
「火を放つ。町に復讐したい奴は一緒に来い、死にたい奴はここで死ね!」
 仲間――クダンが油を倉庫の中に撒いた。
「早くしろ」
 ウィリアムは捕まっていた人々に脱出を促す。
 火の魔法の使い手が油に火をつけ、クダンが犯罪者たちを誘導する。
 ウィリアムは全員脱出したか確認してから、最後に続く。
 ……と、その時。
「逃がすわけには行かぬでござる」
 サクラが駆け付けた。
 強風を発生させて、自身のスピードを飛躍的に上げて、彼女はウィリアムに斬り込んできた。

 

イラスト:雪代ゆゆ
イラスト:雪代ゆゆ

「おぬしがここ最近の放火犯でござるか?」
「くっ……」
 ウィリアムはサクラの攻撃を辛うじてナイフで弾き、路地へと転がり込む。
 空き家へ入り込み、裏口から外へ出れば森に続く道に出られるはずだ。
「どちらにしても捕らえてみれば判る事でござる」
 サクラは深く考えることを得意としない。状況把握に努めることはせず、ただ、ウィリアム達の後を追う事に集中する。
「天月桜、推して参る!」
 道の状況ついては、事前に調べてある。
 風を操り、一直線に、サクラは凄まじい速度でウィリアムに接近する。
 ウィリアムはナイフを投げるが、風に阻まれあさっての方向に飛んでいってしまう。
 サクラは彼の足に、刀を突きたてた。
 直ぐに刀を引き抜きウィリアムを捕らえようとしたが、伸ばした手を弾かれ、投げ飛ばされてしまう。
 体格と力では適わない。深手を負いながらも逃走しようとする彼に、魔法を浴びせようと集中したその時。
「おせぇぞ、ウィル。ここで死んでくか?」
 そんな声が、塀の上から響いてきて、風の刃が降ってきた。
 サクラは瞬時に、物陰へと隠れる。……大した術ではなさそうだ。
 だが、サクラが魔法を放ちながら飛び出した時、その場にはもう誰もいなかった。
「血の跡が残っているでござる。これを追えば……」
 相手は一人ではない。待ち伏せされる可能性もある。
 これ以上の単独行動はまずいと感じ、サクラは一旦報告に戻ることにした。
(あの者……なぜ、拙者を斬らなかった)
 自分が彼に斬り込んだ時、貫いた時、投げ飛ばされた時。
 いずれも、ナイフで刺してくることも出来たはずだ。
 彼はサクラへの攻撃を躊躇しているように見えた。
「名は……ウ……? 忘れてしまったが。火の魔術師ではないようでござった」
 サクラはありのままを騎士団に報告し、その後の捜索への協力を申し出るが、学生でありまだ少女であることから、その日は騎士団員に護られ、寮へ送り届けられたのだった。

 翌日聞いた話では、この日逃走した囚人の半分は再び拘束、もしくは自から出頭してきたため、別の場所に収容されたそうだ。


第3章 脱走

 逃走した囚人と、攫われた女性たちの捜索が行われている中、領主の館の外れにある堅牢な建物――重犯罪者と、魔力の高い犯罪者が収容されている館の大掃除が行われていた。
 刑務に携わっている騎士は非常に少ないため、この日は応援として要人護衛に携わる騎士も周辺の警備に当たっていた。
「午前中は普段通りの清掃を行い、昼食時に囚人たちを大部屋に集め、午後から一斉清掃を行う」
 騎士のカル=ウィルが、メイドと手伝いに訪れた貴族たちに清掃の手順を説明する。
 手順はメイドたちと打ち合わせて決めたものであり、上官に計画書を提出して立候補することで、カルは本日の大掃除の指揮を任されていた。
(うおー、アイツが仕切んのかよ。じゃ、あの娘に近づくのは無理かな。ま、いいけど)
 貴族のロスティン・マイカンは、後ろの方で適当に説明を聞きながら、周りを見回していた。
 今日は館の若いメイドがここに大集合である。
 口うるさいメイド長は館の仕事を取り仕切っているため、ここには来ていない。
 囚人の収容所とは思えない、パラダイスだ!
「では、任務を開始する」
 カルの声が響き、メイドたちが返事をして、各々掃除用具を手に担当場所へと向かっていく。
「みんな、掃除頑張れよー。届かない場所とか、手をかすからなー」
 ロスティンや貴族はメイドたちの監視とサポートを任されている。
「……さて」
 皆の様子を見ているふりをしながら、ロスティンは布巾を手に玄関のドアの方へと向かった。
(この扉、開かなかったせいで、パニック起こしたじゃねーか)
 先月、深夜にこっそりロスティンはここに訪れていた。
 このドアから一人で館に入る事は出来たのだが、出る時は自分では開けられなかったのだ。
(あのカルとかいう騎士は普通に開けてたし何か仕掛けでもあるのか?)
 磨くふりをして、開けようとするがやはり開かない。
(魔法的な何かじゃないな……ここでも魔法は全然使えないし)
 押しても引いても、やはり開かない。
「ロスティンさん、何をやってるんですか?」
 掃き掃除をしていたメイドのミーザが声をかけてきた。
 美人なミーザはロスティンのお気に入りのメイドの一人だが、彼女には意中の相手がいるらしい。
「えっと、ドア枠を磨こうと思ったんだけど、なんか開かなくてさー」
「ああ、このドア、囚人さんたちが逃げ出せないように、中からは開かないようになってるんですよ。開け方があるみたいなんですけど、騎士さんや偉い人しか知らないそうですよ」
「そうなのかー」
(って、ことは、囚人たちが暴れ出して、万が一騎士がのされちまったら、俺、逃げ出せないじゃないか)
 これは何としても開け方を知っておかねばならない。
 ロスティンは貴族の親の脛齧り魔法学校生である。
 今日も掃除に適さぬ、ナンパに適した格好で訪れているのだ。
 この場では、間違いなく人質にしたくなる男ナンバー1だろう。
「ところで、キミ、今晩暇ー?」
「うふふ、今晩は皆で打ち上げするんです。女性ばかりなんですけれど、ロスティンさんも来ますか?」
「いくっ」
 勢いよく答えて、ドアノブから手を離そうとした途端、小指がノブの下の方に引っかかった。
「ん?」
 くぼみの中に小指を入れたまま、ドアを押してみると……。
「開いた!」
「開きましたね、凄いですロスティンさん、尊敬しますっ」
「だろ、こんな仕掛け俺にかかればちょちょいのちょいさー」
「頼もしいですー」
 いつの間にかメイドたちが集まっており、ロスティンは調子に乗って皆にドアの開け方を教えてあげたのだった。

「あれ? この館って地下があるの?」
 騎士のアディーレ・ペンペロンは掃除の手順書の中に、館の地下の図面があることに気付いた。
「ああ、今は使われていないそうだが、確認はしておいた方が良いだろうな」
 カルがそう言い、ファイルから取出して、アディーレに地下の図面を渡す。
「俺はしばらくここを離れられない。行ってもらえるか?」
「うん。それじゃ、確認してくるわね」
 館は2階建てであり、現在は1階の各部屋の片づけが行われていた。
 カルは監視のため動けないらしく、アディーレは図面を手に、地下に向かうことになった。
「おしゃべりは終わってからにしてねー。早く終われば、おしゃべりの時間いっぱいとれるでしょ?」
 ナンパや雑談をしているロスティン達に軽快に声をかけて、「ほらほら」と背を叩いて仕事に戻らせながら、アディーレは地下に続く扉を開く――この入口も、玄関と同じようにロックされていた。
「ここは……魔法が使えるのね」
 地上階のような押さえつけられるような感覚はなく、ここでは魔法が普通に使えるようだった。
 ランプを手に、ゆっくりと階段を下りると、廊下の先に明かりが見えた。
「人、いるじゃない」
 そういえば、アゼム・インダーを始めとして、この館で暮らしている人もいるという話を聞いたことがある。
 まずは人のいない部屋から、掃除が必要かどうか確認していく。
 普通の客間のような部屋が2つ。
 その先に、大きな……実験室のような部屋。
 向いの明かりが漏れている部屋も、広い部屋のようだった。
 トントントンと、アディーレはドアを叩きながら、
「掃除のための確認に来ました。どなたかいらっしゃいますか?」
 声をかけてみた。
「女の子かい? どうぞー」
 男性のお年寄りの声だった。
「失礼します」
 その部屋は、倉庫となっていた。家具や置物などが、所狭しと置かれている。
「こんにちは、お爺さんはここの住人?」
「そうじゃよ。わしはここを建ててからずっとここに住んでおる。お譲さんは見たところメイドさんじゃなさそうだね? わしを捕まえにきたのかい?」
「捕まえる? お爺さんも犯罪者なのかしら? あたしはここの掃除に来ただけよー。人が住んでいるのなら、この階の大掃除もしなきゃね」
 ランプの光を当てながら、アディーレは倉庫の中をそれとなく確認する。
 家具や置物の他に……何かの機材や、工具類もしまわれている。
「ここの掃除は今日はやらんでも大丈夫じゃよ。それより、上のことをいろいろ聞かせてくれないかね? あの小僧は3日に1度の物資提供以外、何も話していかんのでね」
「あの小僧?」
「レイザ・インダーじゃよ」
「ふーん……。いいわよ、でもあまり時間ないから、今日は少しだけね」
 アディーレは少しの間、老人の話し相手になってあげることにした。

 重犯罪者の室内清掃や洗濯物の回収には、騎士が付き添っていた。
「俺は一人で大丈夫。向こうが手が足りてないみたいだ。頼むよ」
 そう言って、ラトヴィッジ・オールウィンはメイドを他の部屋の手伝いに行かせると、彼女の部屋――先月、ドアを開けてほしいと誘惑してきた少女の部屋へと入った。
 台車を入れて部屋に入って、ドアを閉め、部屋の中へと歩いて行く。
 彼女は、サーナ・シフレアンは部屋の真ん中で、手を胸の前で組んで立っていた。
「ラトヴィッジ」
 ラトヴィッジの名を呼び、瞳を潤ませる。
「迎えに来た」
 と、ラトヴィッジは台車に乗せていた籠から、服とストール、それから、お金と保存食が入った袋を渡した。
「大きいかもしれないが、我慢してくれ」
 その服は、彼を育ててくれた義母の服だった。
 サーナは今着ている服の上から、その服を纏う。
 それでも10代半ばで華奢な体つきのサーナには少し大きかった。
「まだ、鎖ついたままなの」
 彼女の足は、鎖でつながれていた。
 全体清掃の時までに、鎖は外されるはずだが……その時、彼女を連れ出すチャンスはあるだろうか。
 その前に鎖を解くことができないだろうかと、ラトヴィッジは屈んで調べてみる。
 ガチャッ
 突然、ドアが開いた。ラトヴィッジは反射的に立ち上がり、サーナを背に庇う。
「大丈夫。この人は敵じゃない」
 現れたのは、大掃除を指揮するカルだった。
「メイド長には大量に仕事を押し付けてきた。この時間、見回りの騎士は裏口方面にはいない」
 カルはサーナの足を繋ぐ鎖を鍵を使って外しながら、小さな声でそう話した。
「ありがとう。お名前、聞いてもいい?」
カル=ウィルだ」
 カルは警戒の眼差しで自分を見るラトヴィッジに「頼んだ」とだけ言うと、彼女の部屋から立ち去った。

 少しして、大量の洗濯物を乗せた台車を引いて、ラトヴィッジは部屋の外へと出た。
「古いシーツやゴミを捨ててくる」
 そう言って、勝手口から館の外へ出て行った。

「あー疲れたー」
 ロビーのソファーにごろっと横になり、ロスティンは目を閉じた。
 サボってるフリをして……むしろこれまでも手伝いなんて殆どしてないのだけれど。
 ともかく、瞑想し、魔力の状態を探ってみる。
(凄く静かだ。重苦しいだけで何も感じない)
 魔力そのものが封じられていて、何も感じることはなかった。
 魔力が吸い取られているというようなこともない。
「……おっと、忘れる前に」
 起き上がると書棚の方へと歩き、ファイルを引っ張り出して中を見ていく。
「何をしている」
「うおっと」
 背後から声を掛けられ、びくっとロスティンは震えた。
 警備を指揮している看守の騎士だった。
「ええっと、各部屋の掃除をするために、囚人たちの名前でも覚えておこうかなと思ってな。凶悪犯とかいるんなら注意しとかないと、特に俺の場合」
 そんな風にごまかしながら、看守に名簿を見せてほしいと頼んでみる。
「囚人は全て番号で呼ばれていて、私達も名前は知らない。彼等が犯した犯罪については、簡単だがこの通りだ」
 そう言って、騎士はロスティンに図面を見せてくれた。
 部屋の番号と、収容されている人物の容姿と容疑などについて簡単に書かれていた。
(あの子の部屋は……っと)
 ロスティンはあの誘惑をしてきた少女が、サーナ・シフレアンとカルに名乗っていたのを知っている。
 彼女の部屋の番号は25。大量殺人未遂……と書かれていた。
 魔力が高く、且つ重犯罪者であるらしい。
(うわー……可愛い顔して怖ぇ……)
 ロスティンは思わず唾をごくりと飲み込んだ。
「サンキュー、ばっちり覚えたから、仕事に戻るな」
 とくに何も覚えていないが、ロスティンはそう言うと、その場を後にした。
 っと、そう言えば……。
「ねえ、メイドのおねーちゃん、君たち長くここで働いてるんだよね。サーナ・シフレアンって名前知ってる?」
 ロスティンがメイド達に尋ねると、メイドたちは首を傾げながら答える。
「うーん、確か初代神殿長のお孫さんがそんな名前じゃなかったっけ?」
「曾孫さんじゃなかったっけ?」
「初代神殿長ってどこ出身? 貴族?」
「ウォテュラ王国の王家の血筋だって聞いてたけど……」
(サラブレット! 惜しいことをした……いやいや、めんどうか、軍事国家の王家とか)
 こっちの娘達と後腐れなく遊んだ方がいいよなーなどと思いながら、ロスティンはメイドたちのお手伝い(付きまとい)に勤しむのだった。

 共有部清掃、空き部屋を含む各部屋のゴミ回収、その他日常清掃が済んだ後、囚人たちは広間に集められた。
 窓は封鎖されており、ドアの中と外に武器を手にした騎士が1人ずつ立っていた……が。
「一人足りないようだ」
 囚人の人数が1人足りないことに気づき、監視の騎士が1人、探しに向かった。
 その間に、囚人たちは小声で相談を始めた。
「きみがお隣さん? ぼくはトゥーニャっていうんだ」
 誘拐事件の容疑者として囚われていたトゥーニャ・ルムナは、隣の番号の札を首に提げている男性に、話しかけた。
「ああ、俺はトルテだ。見たとこかなり貧弱そうだが、大丈夫か?」
「大丈夫。最初は筋肉痛が凄かったけど、ちゃんと毎日運動して、普通に歩けるようになったよ。それで、どうやってここから出るの?」
「もうすぐメイドが食事を持ってくるはずだ。食事後、片付けの時にメイドを盾に、騎士を退けて突破する」
 食器を武具代わりにするそうだ。
「ふーん、良く分からないけど、ぼくたちだけじゃなくて、この建物に捕まっている全ての人物と一緒に出よう」
「そうか、うん、そうだな。全員に話は行き渡ってねえと思うが、突破する時に皆に呼びかけよう。ただ、手枷をさせられてるのは、重犯罪者だ。ヤバイ奴もいるから注意な」
 トルテに言われて見てみると、食事が出来る程度の長さの手枷をした囚人が数名いた。
「うん」
「おまえ、属性風だったよな? 軽そうだから背負ってやるよ。その代り、外に出たら魔法ぶっぱなして、騎士退けてくれ」
「わかった」
 トゥーニャはこくんと頷いた。
 純粋な彼女にとって、ここに捕まっている人達は全て仲間だった。
 本当に何も悪いことをしていないのに、自分を無理やり連れてきて、長い間部屋の中に閉じ込めた騎士について、トゥーニャは悪感情を抱いていた。

 囚人が1人見つからないようで、廊下の外は騒動になっていた。
 監視の騎士は1人のまま、広間の囚人たちに食事が配られていく。
 薄い金属のトレー、パンとスープ。そしてスプーン。
 スープは熱くはなく武器にはならない。囚人たちは黙々と食事をとって、期を伺う。
 そして……。
 メイドと若い召使の男が食器の回収の為に部屋に入ってきた時。
 ドアの近くに潜んでいた囚人2人が動いた。
「あっ」
 メイドと召使をそれぞれ背後から羽交い絞めにする。
「何をしている!」
 即、監視の騎士が気づき、棍棒を振り下ろす。
 棍棒が囚人の頭に当たる直前に、別の囚人が騎士に体当たりを食らわす。
 壁に頭を打ち付け、崩れた騎士から、囚人たちは棍棒と剣を奪った。
「ここから出るぞ!」
「みんなで出ようー!」
 トルテはトゥーニャを背負い、部屋から飛び出す。
「部屋に戻れ!」
 警備の騎士が武器を手に狭い廊下を駆けてくるが、先頭の囚人がメイドを盾にしているため、騎士は飛び道具の使用に躊躇した。
 囚人側は食器を騎士に投げつけながら、接近し、剣を突きたてる。
「うわああああ、さいならー!」
 事態を知ったロスティンがロビーから外へ飛び出した。
 メイドたちも後に続く。
「どけよ! 俺達は外に出るんだッ」
 カルも囚人を止めに出たが、魔法の使えないこの空間で、人質と武器を持つ囚人たちを止めることはできず突き飛ばされ、意識を失う。
「きゃあっ」
「よし、外にでるぞ!」
 外に出ようとしていたメイドを引き摺り込み、閉まりかかったドアからトルテは飛び出した。
「ここから出すわけにはいかん!」
 出てきたのが囚人だと分かった途端、待機していた騎士が剣を振り下ろした。
「うがあああ……っ」
 トルテの身体から噴き出した血が、トゥーニャにも降りかかる。
「ひ、ひどいよーーーーーーーっ!!」
 トゥーニャが叫び、強風が吹き荒れる。
 騎士は遠くへ吹き飛ばされ、囚人たちは次々と脱出する。
「大丈夫か? 皆でここから出るんだ」
 地の魔法を使える若い囚人が、トルテを治療しつつ肩を貸す。
 重傷だが、息はあった。
「当座の食糧を貰っていく。倉庫を壊せ」
 手枷をした囚人が逃げ遅れたメイドを盾にしながら、トゥーニャに言った。
「うん」
 トゥーニャは大切な仲間を傷つけた騎士に強い怒りを感じていた。
 掴まっていた仲間の言葉が正しいと信じて疑わなかった。
 トゥーニャともう一人の風の魔法の使い手が、倉庫を強風と風の刃で破壊する。
 近づく騎士を、火の魔法の使い手が焼き殺す。
 更に、辺りを火で取り巻き、風を放ち、増援を近づけさせない。
 囚人たちは食糧を持てるだけ持つと、人質としてメイドを1人連れて、驚異的な魔法を行使し、山間部へと逃走した。


第4章 お前は誰だ

 脱走事件当日、午前中。
 その日は休校日だったが、レイザ・インダーは夜勤明けで人工太陽の打上げに協力し、その後校内で仮眠をとっていた。
 迎えの馬車の時間になり、彼が帰ろうとした時に尋ねて来た者がいた。
「お疲れのところすみません、お聞きしたいことがあるんです」
「こちらでは、教職員の方が警備もしているのですね」
 騎士団員ナイト・ゲイルと、貴族のマーガレット・ヘイルシャムの2人だ。
「騎士団員も交代で見回りをしてくれているが、規模的にそれだけじゃ心もとないからな」
 気だるげに言い、レイザは2人と共に外へ出た。
「帰りながらでもいいか? 今日は館の警備も不足しているようだから」
 レイザは館の管理人、及び一教師でしかないのだが、館にいる時には館の、学校にいる時には学校の警備要員としても数えられている。
「ええっと……バート隊長から、聞いてますか?」
「ああ、君のことは聞いてる。口下手で強力なナイト君」
 くすっとレイザが笑みを浮かべ、ナイトは眉を顰める。
「……いえ、俺のことではなく……一連の火の魔術師による、事件のこと、です」
 相手は上官でもないし、のんびり話をしている時間もない。
 ナイトはこの後、魔法学校の施設を回って警備方法の確認をしていくつもりだった。館に一緒に行くことはできない。
「ここが水の結界に守られて……閉じ込められて2年」
 ナイトは普段の口調で話しだす。
「皆ひたすら耐えて頑張って生き延びてきた」
 その間に、罪を犯した者もいる。くじけそうになりながらも、希望を持ち続ける者も、絶望に飲まれて破滅を願う者もいる。
「その全員がここを出て頭上に広がる空を見たら、何かを感じるさ」
 そこからどうするか決めればいいと、このまま終わるのはさすがに寂しすぎると、ナイトは自身の思いを語る。
「だから犯罪者も含めて全員で生き延びる、その為にアンタの知恵を借りたい」
 強い瞳で、レイザを見る。
「バート隊長が言っていた、今回の倉庫火災の犯人が火の魔術師の場合は心辺りがない、と。アンタは心辺りあるのか? そして、本人にその能力がなくても補助するための魔法具を使える可能性はあるか?」
「報告書は軽く見たが、あの程度の火災なら、ここには起こせる奴が何十人もいる。ただ、外部から単独で火を熾し、犠牲を出すことなく短時間で全員を脱出させたとなると、かなりの能力者だ。単独犯ならば、俺にも心当たりはない。そういった魔法具はどの国でも厳重に管理されているから、外国人であっても持っているとは考えにくい」
 魔力というよりも、魔法行使能力が高いということらしい。
「外国人はそう多くはないし、騎士団は当然調べているだろうから、何らかの理由で能力を隠していた一般人……だろうか」
 レイザにも思い当たる人物はいないようだ。
「一時的にでもいい、出来るだけ傷つけずに捕えるために、そいつの魔法の力を無力化する方法はないか?」
「傷付けずになどと考えている間に、犠牲が出るぞ」
「犠牲も出さずに、無力化だ」
 ナイトは真剣な表情で言う。
「無茶を言うな……」
 レイザは眠気もあり、目を細めて眉間に皺を寄せ、考える。
「騎士団には、魔力を制御する装置があるはずだが、この空間内に、存在しているかどうかは俺は知らない。形状も分からないが、例えばネット型なら、それを被せてしまえば、魔法能力を著しく奪うことは可能なはずだ。
 ただそういったマジックアイテムは、かなりの量の魔法鉱石を必要とする。
 その魔法鉱石を人工太陽や箱船の結界用に用いれば、寒さや病気で死にかけている人が助かる可能性、地上に出れる確立……そう、より多くの人が助かる率が高まる」
 レイザは目を開いて、ナイトの真剣なまなざしに応じ強い眼で答える。
「障壁の狭まりと同じように、2年の間にも少しずつ死者が出ている。犠牲を出さずにというのは現実的じゃない。その方法を考えている間に、弱者は倒れていくのだから。犠牲を出さずに、皆が助かる方法などない」
 レイザは強く言い切るが、ナイトも負けてはいない。
「あるかないかじゃない。確立がどうとかでもない。全員で生き延びるんだ」
 騎士として皆を守る。
 ナイトの中に芽生えた、強い気持ちだった。
「お前」
 レイザの瞳が鋭い光を放つ。
「この先何があってもその信念曲げんなよ。護るべきものを、護ってみせろ」
 ギラリと瞳を光らせ、そしてレイザはなぜか嘲り……自嘲的と見える笑みを浮かべた。
「ああ」
 目を逸らさず、ナイトはしっかりと答えた。
「ではここで」
 ナイトは騎士として、貴族の2人を礼をして見送る。

 レイザとマーガレットが馬車へと入り、ナイトが魔法学校の校舎へ戻りかけたその時だった。
「おーっほっほっほ! どうやら私の力が必要のようですわね!」
 子供の声が響いた。
 見れば、門扉の側に浮いている少女の姿があった。
 ナイトは眉を顰めつつ、言う。
「おいアホの子、とりあえず危ないから降りろ」
ナイト・ゲイル、話は聞かせていただきましたわ。あなたには私、エリザベート・シュタインベルクの力が必要なのですわ」
 浮いている少女……エリザベートはレイザに魔法制御のコツを聞きに来ていたのだが、悲しいことに身長の低さからレイザの目に留まらず、ナイトたちに先を越されてしまっていた。
 そのまま後をつけていてナイトたちの会話を聞き、彼に興味を持った。
 話の内容は良く解らなかったが、生きる道を模索するという、彼の姿勢を尊いものだと感じた。
 そして、彼女は自分の不甲斐なさ、力の無さを身に染みて感じていたから……。
(名声を得ることができれば貴族としての名が上がるというもの! そのためにもこの男を利用してやるとしましょう)
 そんな考えから、ナイトに声をかけたのだ。
「エリザベート? 知るかバカ」
 ナイトの冷たげで、乱暴な言葉を受けてもエリザベートは怯まない。
 彼の想い――彼が乱暴な印象ながらも優しい人だと今のやりとりで知っているから。
「誰がバカですか誰が! これでも頭はいい方ですのよ!?」
「バカは高い所が好きだからな」
 ナイトはため息をひとつつくと、助走もつけずに門扉に足をかけて跳んだ。
「!?」
 そして、エリザベートをいとも簡単にキャッチして着地する。
(凄い跳躍力ですわ! 私と彼とはお互いに必要なものを持っている、のであればやはり協力しない手はありませんわ)
 と、その時。
 ナイトは空が僅かに赤く染まったことに気付いた。
「火事か!?」
「エリザベート!」
 突如、馬車からレイザが飛び出してきた。
「俺を抱えて飛べ!」
 言いながら、レイザはエリザベートを背後から抱き上げた。
「え? 先生を抱えて飛ぶってどういうことですか? むしろ抱えられてるのは私……!?」
「グズグズするな、寮の方が燃えている」
「俺の手を踏み台にしろ。投げ飛ばす!」
 ナイトが手を組んで、身をかがめた。
 レイザはエリザベートを抱えたまま、助走をつけてナイトの手を踏んで跳ぶ。
 ナイトが、力いっぱい2人を空へと飛ばした。
「きゃあああああっ」
「エリザベート、集中しろ。風をコントロールして、浮かせるんだ」
「そ、そんなこと言いましても……っ」
「お前、小さいのは身長だけだろ! 気も魔力も弱くないはずだッ」
「ち、小さくなんてありませんわーーーーーッ!」
 エリザベートは叫び声と共に、魔力を放出する。強い風を起こし、レイザの身体ごと高く空に浮いた。
 体勢が整うと、レイザは燃えている寮と周辺を強く睨みながら片手を振り、魔力を飛ばした。炎が、溶けるかのように消えていく。
 それから、別の方向を見た。
 エリザベートも必死に風をコントロールしながら、ちらりと目にする。
 山の中腹に、人の姿があった。若い男女と、少女……。
「お前は誰だ」
 レイザの呟きと同時に、その3人が炎に包まれる。
「せ、んせい、もう限界……」
「ゆっくりだ、気を抜かずにゆっくり」
 このまま落ちたら、死んでしまうかもしれない。解ってはいたけれど、エリザベートの意識がもうろうとしていく。
「大丈夫だ、受け止める!」
 地上から声が響いてきた。
ナイト・ゲイル……私を、護りなさい……。私の騎士に……」
 エリザベートの意識が消えていく。レイザが彼女を庇うように抱きしめる。
 ドンッ
 急降下し、落ちてきた2人をナイトがしっかりと受け止めた。
「この子を頼む。寮の辺りが燃えていたが、大丈夫だろう。そっちは任せる」
 レイザはエリザベートをナイトに預けると、ふらつきながら、馬車へ急ぐ。
「館が心配です。彼を送り届けますね」
 マーガレットがドアを開けてレイザを乗せて、自分も再び乗り込んだ。
 ナイトはエリザベートを抱えて、寮へと走る。
「小さいのにすげえ力だ」
 ナイトは魔術師の力、そして連携の必要性を強く感じ取った。
 この場にいたのがレイザだけでも、この小さな子だけでも、自分だけでも、すぐには火を消せなかった――寮の子供達を護りきれなかっただろう。

 

*  *  *


 その少し前。
 エイディン・バルドバルは、魔法学校に見回りに来ていた。
「ねえねえ、エイディンお兄ちゃん、おんぶしてー」
「巡回中だからあまり時間が……おおっと」
 断ろうとしたエイディンの肩に風の魔術師の卵君がふわりと浮かび上がって座った。
「私はこっちの手~」
「わーい!」
 エイディンの太い左右の腕に、子供達がぶら下がる。まるで遊具のように、エイディンに何人もの子供達がぶらさがる。
 毎日のように訪れていたエイディンに、子供達は懐いていた。
「こらこら」
 エイディンの強面な顔に、笑みが浮かぶ。
 ここは子供達の多くが暮らしている場所。重要施設でなく警備は薄いが、護らなければならない、護りたい場所だった。
 そんな矢先に……火災は発生した。
 外にいたエイディン達を取り囲むようにまず、周りの木々が燃えた。燃えるものが何もない場所も。寮を取り囲み、逃げ道を奪うように燃え始めたのだ。
「広い場所に集まるんだ。煙を吸うな! 風の魔法を使える子は外に向かって放て」
 パニックになる子供達に指示を出している間に、寮が燃え出した。
「皆、避難を! 火の魔法使い! ここに集まって、玄関の火を消しなさい」
 子供と共に飛び出してきた寮母が、皆に呼びかける。
 エイディンの避難訓練の成果もあり、子供達は次々に飛び出してきて、弱いながらも魔力で炎から自分達を護る。
「……ヤツがいない! ヴォルクは反省室かっ」
「どこだ?」
「1階の奥の倉庫です」
 炎の中に飛び込もうとする寮母を止めて、エイディンは燃える寮の中へと入った。
 魔術師の卵たちが後方から火を弱めようとしてくれているが、あまり効果は無く、エイディンの服に火がついていく。口を押え、叩き消しながら進み、反省室のドアを開けて中で眠っていた子供を抱き上げた。
 そして子供を胸に抱くと、近くの窓を体当たりでぶち破って外に転がり出た。
「キャー!」
「お兄ちゃんッ」
 寮生たちが叫び声を上げながら、魔法でエイディンの火を消していく。
 エイディンの腕の中のヴォルクは、修行疲れで眠っているだけだった。
 寮生たちの協力により、エイディンの服に燃え移った火が消えた。それと、ほぼ同時に。
 すうっと、辺りの炎が大気に溶けるかのように消えていった。
「レイザ先生だ!」
「うわーん」
 校舎の方の上空に、教師のレイザ・インダーの姿があった。
「ほら、ボヤを消すんだよ。皆大丈夫だから」
 寮母が寮生たちの背を叩いて促す。
 一部、燃え移った炎がまだくすぶっていた。
 寮生たちは怖がり、泣きながら火を消していく。
「大丈夫だ。ありがとう、君達は本当に強い」
 エイディンも子供を寮母に預けると、寮生たちと共に後始末に動く。
 子供達に優しく声をかけて、励ましながら、その実、激しい怒りの炎がエイディンの体内に渦巻いていた。

 

*  *  *


 レイザが館に戻った時には、既に敷地の外れに捕えられていた者達全てが脱走した後だった。
 被害状況は、死者1名、重体1名、軽傷2名でいずれも騎士団員だった。
 また、女性の使用人が1人、彼等に連れ去られてしまい、倉庫の蓄えの一部も持ち去られている。
 領主の館の館内の警備は護衛隊の管轄にあることから、護衛隊、警備隊による緊急対策本部が設置された。
 また、町や魔法学校から有志の協力者を募り、まずは脱走者と人質解放に向けての交渉、説得。……決裂時は、特殊部隊を結成し突入。最悪、掃討作戦が行われることになるだろう。

 

 

個別リアクション

『地下の住人』

『私には、きっとできる』

『民を護るということ』

『契約』

『君の騎士に』


■状況
★騎士サイド
15歳以上の対策本部に所属し、専任で事件対処に当たる民間の隊員(準騎士)を募集いたします。
他に仕事を持っている人、魔法学校生はその間、休職、休学することになります。
この事件に関してのみ、騎士と同等の情報、権限、装備品が与えられ、交渉、戦闘に立候補できます。
13、4歳の少年少女は、所属はできませんが、本部の手伝い、補給サポートの協力を申し出ることができます(休学等の必要はありません)。

対策本部に以下の貴重な魔法具が1つずつ、貸与されます(本部に1つずつです。所属者に1つずつではありません)。
・著しく魔力を弱める手錠
 携帯する人物も魔法の発動が困難になります

・指輪型魔力増幅装置
 自身の瞬間魔力をプラス10程度増幅できますが、体に負担がかかります。体力、精神力がないと制御できない可能性もあります。
 無理に力を引き出そうとすると、命に関わります。また、子供に扱えるものではありません。
 敵に奪われると大変危険なアイテムです。厳重に管理する必要があります。

※尚、一般騎士も知らないPL情報となりますが、隊長以上の騎士団員は魔力増幅装置を常に身につけています。形状は様々です。

貸与される魔法具はそれぞれ、以下の人物が管理することになります。辞退も可能です。
手錠…所属隊員のうち、魔力の値が一番低い者(同じ値の場合、騎士、信頼値の順で優先)。
魔力増幅装置…所属隊員のうち、信頼の値が一番高い者(同じ値の場合、騎士、魔力の順で優先)。

【NPCの動き】
バート・カスタル
別の事件(グランドの事件など)の指揮も務めているため、対策本部の会議には出席するが、交渉を担当したり現場指揮を行う事は難しい。

レイザ・インダー
普段通りの生活を送りつつ、備えに動く?
対策本部の一員とされている。

リルダ・サライン
対策本部の会議に顔を出します。
求められれば、交渉に同行します。

★脱走者サイド(人質含め20人)
自治権の確立を目指そうという話になります。
人質は解放せず、当座の食糧の要求、魔法鉱石の要求などを検討します。

メンバーのうち、重犯罪者は3名。
無差別殺人犯2人(魔法能力並)
強盗殺人犯1人(魔法能力並)

魔力が極めて高い人物3名。
窃盗犯1名(属性地)
脅迫罪1名(属性風)
冤罪1名(トゥーニャ・ルムナ 属性風)

その他は魔力が高く、自身の生活の為及び、瑕疵や怨恨による犯罪者13名。

魔力接近を感知できる者が複数人います。
魔力の高い者が不用意に近づくと危険です。

人質
ミーザ・ルマンダ(領主の館のメイド)

★破滅派サイド(人質含め15人)
脱走者たちとの合流を計ります。特に妨害がなければ、前回開始時には合流しています。
その後は、希望がないことを、脱走者サイドに説いて破滅へ導きます。

犯罪者の多くは水の障壁に害をなす行為をした者。
及び、政治犯罪者とされた人物。
犯罪者のリーダー的存在は、クダン・イスセーズ(中年。属性風/犯罪歴:恐喝等)。
長く監禁されていた者は収容所で独自に魔法の練習をしていたため、そこそこ魔法が使える。
脱走幇助、メンバー勧誘、及び物資を提供し、メンバー全員をまとめていたのはアーリー・オサード。

魔力が極めて高い人物2名。
アーリー・オサード(属性火)
サーナ・シフレアン(属性水)

人質
シャンティア・グティスマーレ(公国貴族)


■連絡事項
メリッサ・ガードナーさん
レイザからの仕事の依頼につきましては、継続して行って頂ける場合は、継続しているとだけ手段欄か私信欄にご記入いたき、それとは無関係な行動をしていただいて構いません。
(依頼の内容は変わるかもしれませんが、メリッサさんが嫌がるような仕事を押し付けることはございません)
尚、仕事についてのご行動(どのように水泳のコーチをするなど)をご記入いただいた場合は、こちらのみで1アクションとカウントさせていただきます。
また、次回グランドでマテオ・テーペの登山が行われますが、グランドにレイザとの契約の話題を持ち込むことは出来ないです。グランドへ移動された場合は彼との契約は解除となります。

イーリャ・ハインリッヒさん
アリス・ディーダムさん
ファルさん
その他洞窟探索関連に興味のある方
次回NPCは洞窟探索と、これまでに手に入れたお宝の調査に分かれることになります。
特に提案がなければ、プルクは洞窟探索、気弱な子は石を持って先生のところに、元気な子は本を持って図書室で読めそうな人を探す予定です。
どの方面もNPCだけでは、進展は得られないものと思われます。

洞窟探索で入手した本につきましては、PCでも知識14以上の方は多少読むことが出来るとしてOK、20以上で翻訳可とさせていただきます。
魔法学校の図書館には素行に問題がない方でしたら、学生以外も許可を得て入ることが可能です。

洞窟の探索は交流でお誘いした大人同行で入口や途中の岩を破壊して(地属性、魔力14以上で可)進んでも良いと思います。
ただ、子供(今までのメンバーのだれかが)が先頭を歩くことに関してだけは、プルクが譲らないと思います。

ノア・ラメールさん
次回ご参加いただける場合は、犯罪者たちに捕まっているとしても、解放されているとしていただいても構いません。

エイディン・バルドバルさん
ロビン・ブルースターさん
リベル・オウスさん
サクラ・アマツキさん
対策本部から協力を求められています。
ご協力いただける場合は、所属(準騎士)か、所属せずに協力かをお選びください。
所属せずに協力の場合は、所属していないが協力しているとご記入の上、関係のない行動をとっていただいても構いません。

カル=ウィルさん
次回は負傷した状態となります。重傷ではありませんので、行動に制限はありません。

ラトヴィッジ・オールウィンさん
行方不明とされています。
囚人に攫われたのか、手引きをしたのか把握できていないといったところです。

ウィリアムさん
重傷を負っており、次回は戦闘行為は難しいです。
自力で歩くことくらいは可能です。

■第3回選択肢
・洞窟の探索(前回関わった人、もしくは情報を得ている人、または前回関わった人の紹介のみ)
・洞窟で手に入れた石について誰かに聞いてみる(前回関わった人、もしくは情報を得ている人、または前回関わった人の紹介のみ)
・魔法学校図書室で活動(前回洞窟の探索をした人、または知識14以上の方のみ選択可)
・脱獄事件対策本部の会議で提案(所属者のみ可)
・脱獄事件対策本部で活動(所属者、協力者のみ可)
・対策本部の方針に従い代表として犯罪者と交渉(公国騎士または準騎士として活動する方限定)
・犯罪者、脱走者達と行動を共にする(前回一緒に行動した人のみ選択可)
・~に聞きたい事がある!(サイドのストーリーに関係のある人物、話題限定)
・その他サイドのストーリーに関係のある行動

 



担当させていただきました、川岸満里亜です。
今回は第1章の大半を鈴鹿マスターにご協力いただいています。

まだ2回ですが、「滅びを望む者たち」の物語はもう半分終了です。
色々と予想外の展開を楽しませていただいております。

グランドの方でも、事件が発生していますが、こちらの事件とは関わりがございませんので、グランドで取り扱われている事件に関わりたい方は、グランドへのご参加をお勧めいたします。
が、サイド、展開によっては人手が足りなくなりますため、マテオ・テーペをお休みしているご友人などいましたら、是非引っ張ってきてください!

出来れば掲示板で次回の行動概要をご発言いただけましたら、多くの方がとても助かると思います。
リアクションの見落としで、出来ないことや、状況に合わない行動をしようとしていた場合、気づいた方が教えてくれるかもしれません。

マテオ・テーペではダブルアクションを禁止させていただいております。
PC間の相談をメインシナリオのリアクション上で行いますと1ターン消費してしまいもったいないです。
掲示板などで相談可能なことは、アクション前に済ませておくことをお勧めいたします。
PL間交流でPC間の情報の受け渡しを行う場合は、必ず受ける側、渡す側両方のアクション欄にその旨ご明記ください。
お書きいただきましても、受け渡しできる状況ではなかった場合は、失敗する可能性もあります(片方が監禁中など)。

第3回のメインシナリオ参加チケットの販売は4月20日から4月28日を予定しております。
アクションの締切は4月29日の予定です。
詳しい日程につきましては、公式サイトお知らせ(ツイッター)や、メルマガでご確認くださいませ。

それでは引き続きどうぞよろしくお願いいたします!