メインシナリオ/サイド第6回
『炎の慟哭 第2話』

第1章 未来のために

 揺れは激しくないものの、地震の頻度が増えていた。
 人々が不安に包まれる中、警備隊隊長のバート・カスタルに話を聞くために、クロイツ・シンは神殿に訪れていた。
「忙しいところわりぃ。どうだったか聞かせてくれるか?」
 造船所に移動するために出てきたバートに近づいて、自分の疑問に対しての結果を尋ねる。
 火山対策説明会で、抑え込むのではなく火山活動の際に発生する力を魔力へ変換して活用することはできないかとクロイツは問い、バートは到底無理だと思うが、上に聞いてみるとクロイツに返事をしていた。
「ああ、やはり技術的には無理なようで、恐らくは今のこの状態が、ウォテュラ王国が力を利用しようとした結果なんじゃないかという話だった」
 そして、これは騒ぎになると困るので、広めないで欲しい話だがと前置きをして続ける。
「水の神殿で抑えていたのは、“火の魔力”なんだ。火山には火の魔力が溜まっている。
 そういた火山とは別の場所に溜まった魔力を、王国が利用しようとした結果が今――洪水が発生したのではないかというのが、上の見解なようだ」
「そうか……」
 バートと一緒に山道を下りながら、クロイツは独り言のように話していく。
「門外漢だから思うが、魔法はどういう発想だろうな。自然の力を借りているのか自然を御するのか。昔話にもいる神が実在するなら、後者をどう思うか」
 バートにはクロイツの言葉に、怪訝そうな顔をしている。
「世界を創った神が自らの恩恵を貸してる意識なら、便利なもののように利用したら面白くねぇだろうし。世界を創り直すって発想になるのかもなって、人じゃねぇなら人じゃねぇ視点の考えだろ」
「そうかもとは思うが、目の前の問題の対応だけでいっぱいいっぱいで、考えてる暇なんて、ないんだよな」
 バートは力なくそう答えた。人が起こした問題の対応だけで、彼は手一杯であり、その顔には疲労が色濃く表れている。
 常に現場を駆けまわっている彼には概念などに思考を巡らせている余裕はないようだった。
「ありえねぇことがありえねぇから、聞いときたかったが、そうだな。騎士団の立場じゃ、そこまで考えて動けねぇよな」
 疑問はまだまだあった。幾らでも。
 緩めた障壁を締める際の術者の負担、最後の箱舟の時、障壁を維持していた術者は『どこ』にいるか、最後の人柱になったりしないだろうか――。
 そう言葉を漏らすと、バートは「その最後の一人を送りだすまで、俺はここにいるさ」と笑顔で答えた。
 クロイツは苦笑して、軽く首を左右に振る。
「死んでいい人間はいねぇと思う。
 人が死んでざまぁと笑ったり、人が死ぬのを当然とか正義とか尊い礎と思う人間になりたくねぇ。足掻くしかねぇさ」
「ああ」
 クロイツのその言葉に、バートは強く頷いた。
「バート、伯爵に聞いてくれて、つまんね話聞いてくれてありがとう」
「立場に縛られる俺には、やりたくても出来ないことが沢山ある。君のその想いに賛同し、応援したいと思う」
 意思を感じる強い目でバートは言い、2人は頷き合った。
*  *  *


 入口が広げられ、以前のような子供たちだけの秘密の場所、といった感はなくなった洞窟。
「前に魔法鉱石が見つかったのはこのあたりです……」
 ファルは人の出入りが極端に多くなったその洞窟の奥で、警備隊員で作業員たちを指揮する男にそう語る。そこは土木作業と補強を繰り返しながら通路を拡げ、先ほどようやく大人たちが入れるようになったばかりだった。
 ファルは加えて、前回ここへ来た際に積んでおいた石について説明する。それは、魔法鉱石を発見したときと同じような力を感じたところに置いてあり、力の強さに応じて積む石の量を増やしてあるというものだった。
 それを聞いて、警備隊員が周囲を調べるよう指示を出した。すぐにその指示を聞いた作業員たちがファルの積んだ石を中心にして石の探索作業を始める。洞窟内は、俄然活気を帯び始めた。
 しかし、いまだ何故か女性扱いされているファルはその作業からは外されてしまった。
 それでもやはり、何か協力しなければという思いはある。ならば、自分にできることをすればいい。
 まだ手が付けられていない魔力を感じたポイントを前に立ち、自分の顔のすぐ左、片側に一房だけ垂れた髪に吊り下げたアクセサリーに触れる。目を瞑り、神経を研ぎ澄ませる。
 それは、以前見つけた魔法鉱石から作られたもの。レイザに渡した鉱石が加工されて返ってきたものだった。
 そして、ゆっくりと緩やかに舞を始める。意識するのは、アクセサリーから感じる力。舞いながら、周囲にその力と同じような力を感じないか探っていく。
 舞っているのは、『失せ物探しの呪い』だった。
「おや、お嬢ちゃん何してんだい? きれーな踊りだねぇ!」
 舞いを踊り切る前にそんな声が掛かる。どうやら、前回から自分のことを女性だと勘違いしているままの囚人たちの一人のようだった。
「失せ物を探すまじない、です……。鉱石で作ってもらったアクセサリーを元に他の鉱石を探せないかと」
 取りあえず意識を切らさないようにして踊り終えた後、ファルは相手を振り返って応えた。それは、やはり前回も声を掛けてきた男だった。
「お嬢ちゃんはえらいねぇ、で、どうなんだい? 何か感じたのかい?」
 そう話を続ける男に、ファルはこの石が積み上げてあるところからあっちの方向に掘ってみてくれませんか、と返した。
「おいあんた、ちょっとこっち来てくれ、地属性の魔法が使えただろ! ここからあっちの方角に掘ってみてくれないかってよ!」
 話を聞いた男は周囲にいる同じような服装の囚人に声を掛けていく。たちまち、人が集まってきて掘削作業が始まった。ファルは出来上がっていく人だかりから離れてその様子を見る。力仕事や直接土や石を掘る魔法は得意ではない。
「あった! あったぞ!」
 ほどなく、そんな大声が挙がった。どうやら魔法鉱石らしきものが見つかったようだった。
 その様子を確認して、ファルは他のポイントへと移る。
 指揮する警備隊員もファルの動きに気づきだしたのか、そこからは彼が指示した方向や場所を中心に探索が続けられた。
 結果、ファルはかなり消耗することにはなった。しかしお蔭で魔法鉱石は両手で抱えるくらいの量が掘り出された。
 これは、大きな成果と言えた。
*  *  *
イラスト:じゅボンバー
イラスト:じゅボンバー
 領主の館の敷地内、外れにある堅牢な造りの館にて、魔法制御訓練が行われていた。
 エリザベート・シュタインベルクは、今日も教師や他の実習生よりも早く、教室に訪れていた。
「準備万端ですわ!」
 持ち込んだ踏み台の上に立って胸を張るエリザベート。
 浮いているとはいえ、教壇や机の上に乗る行為はお行儀がよくない。
 そのため、自分専用の踏み台を用意してきたというわけだ。
(これで大勢から見下ろされるという屈辱は回避できる……はず!)
 あとは、愛すべき生徒達を迎え入れるだけ!
「あ、チビ先生こんにちはー」
「今日もちっこいね」
「なんだ、台の上に乗ってんのか。前が見えないようなら、肩車してやるぞ、おチビちゃん♪」
 そんなことを言いながら、囚人服姿の男達が入ってくる。
「いい加減、チビ発言はおやめなさい! あなたたちと目線は変わりませんわ!」
「そーかそーか、無理して背伸びしなくてもいいんだぜ」
「そうそう、魔力が成長すればするほど、身体は成長しないらしいぜ。おチビちゃんはもうここで身長ストップかもな」
「そ、それは本当ですの!?」
 エリザベートは驚いて目をむいた。
「うそだよーん」
「ぎゃはははははっ」
 からかわれたと知り、赤くなるエリザベート。
「早く席につきなさーい!」
 力いっぱいそう叫ぶと、囚人たちはへらへら笑いながら席についていった。
「今日の訓練では、こちらを使います」
 続いて、実習生の一人であるアリス・ディーダムが袋を持って部屋に入ってきて、前のテーブルに器具を並べていく。
「この訓練は2人1組で行っていただきます」
 踏み台の上に立ったまま、エリザベートは組み合わせを発表していく。
 続いて指導を行うレイザ・インダーが現れ、今日の訓練の内容を話してく。
「今日の訓練では、簡単な勝負をしてもらう」
 2人1組で器を一つ用意し、中に水か砂を入れる。
 火と水のペアは、片方が水の量を減らすように、もう片方が量が変わらないように努める。
 風と地のペアは、片方が砂を器の外に運び、減らすよう、もう片方が減らさないように努める。
 異なる属性で力を戦わせる訓練だった。
「魔法の発動は平静で、集中して行えるとは限らない。情況を見極めて、力と精神をコントロールするんだ」
「難しそうですね……」
 先日から訓練に加わっているピア・グレイアムは、対戦相手となる囚人の男性に「よろしくお願いします」と頭を下げた。
「よろしくなー」
「うーん、工夫が必要なのかな。自信ないです……」
 メイドの少女――ミーザ・ルマンダが器を見ながら、自信なさそうに言った。
「大丈夫、皆さんならきっとできますわよ。全く魔法が使えないわけではないのですから」
 エリザベートは皆を励ましつつ、踏み台の上で魔法を発動する。
 風の魔法で浮かぶには繊細な風のコントロールが必要になる。
 全力で魔力を放出したら身体がふっとぶだけで、浮かせることなどできない。
「私の華麗な魔法制御、見せてあげますわ!」
 この魔法が制限された空間の中で、エリザベートは見事に浮いて見せた。
 数センチだけど。
「よし、始めろ」
 レイザの合図と同時に、訓練生たちは集中して力を発動する。
 この部屋には封印が施されていて、魔法の効果はあまり発揮できない。
 ピアと対戦相手とは実力が拮抗しているようで、風で少し砂を外へ運ばれてしまう。
 その砂を戻そうとそちらに集中をすると、器の中の砂を更に飛ばされてしまうという状況だった。
「そこまで」
 レイザの合図で終了した時には、器の中の砂の量は半分くらいの減ってしまっていた。

「はああ……疲れました」
 ピアとエリザベートが声の方に目を向けると、ぐったりしたメイドのミーザの姿があった。
 彼女の前にある器には、開始時と変わらない量の砂が入っていた。
「…………」
 ぴょんと踏み台から降りて、エリザベートは踏み台を抱えると、とことこレイザの側に近づいて踏み台を置き、そして踏み台にまた乗った。
「先生、あの方かなり才能があるようですわ……。
 対戦相手も決して弱い方ではありませんでしたもの」
 踏み台の上で背伸びして、エリザベートはレイザに耳打ちする。
「そうだな。あのメイドは前から気になっていた。他に有能そうなのは?」
 レイザに問われ、エリザベートは観察してきた生徒達の能力について、彼に語った。
 最近の地震が火山性のものであることは、エリザベートも理解してた。
 その対策に直接かかわることが出来ないことを歯がゆく思いながらも、小さな体で自分にできることを精一杯頑張っていた。
(この訓練が、そして災害の対策に、囚人たちが貢献することができれば、彼らと人々の溝は確実に埋まるはず)
 その手伝いをすることが、あの場に子どものわがままで関わった自分の責務であると、エリザベートは信じていた。
「チビ先生! ちと来いや。魔法がどうしても制御できん!」
「おチビちゃん、膝の上に座って教えてくれよー」
 ……例え、例え、チビチビ言われ続けていても……!

「凄いですね。お相手の方も、優れた力を持っていましたのに」
 訓練が終わった後、ピアはメイドのミーザに声をかけた。
「ありがとうございます。私ドジなので、制御とか苦手なんですけれど、毎日のように参加させてもらっているのでっ」
 ミーザは嬉しそうに答えた。
「館のメイドさんですよね? どうして訓練に参加してるの? お仕事も忙しいですよね」
「私魔法の才能あるみたいなんですけれど、お家が貧乏で学校通えなかったので。お仕事しながらなら無料で学ばせてくれるってことで、参加したんです。あ、あと……レイザ様のファンなので……っ」
 最後は小声で顔を赤らめながらミーザは言った。
 可愛らしい子だなと、ピアは思う。
「レイザさんですか……」
 彼が火山を鎮めるために、命を投げ出そうとしていることをピアは知っていた。
「ミーザさん、火山対策の相談会にも来てましたよね? 私、火口の近くまでですが、同行することになったんです。魔力の高い方を引き続き募集しているみたいですから、ミーザさんにも協力してもらえたら嬉しいです」
「お仕事お休みとれるようなら、もしかしたら……うーん、どうしようかな」
 ミーザは迷っているようで、もし協力することになったらよろしくお願いしますと、ピアに頭を下げた。
「それではまた」
「はい、頑張りましょう~」
 ピアはミーザと別れて館の外へ出ると、荷物を背負い軽くストレッチをしてから、町へと向けて走り出した。
 騎士団の助言のもと、足腰、体幹のバランスを鍛えるため、筋力トレーニングや走り込みを行い、体力づくりに努めている。
(バートさん、休めてるかな……)
 バートの笑顔がピアの脳裏に浮かんだ。彼は多分、相当無理をしている。
 訓練の成果報告の時に、彼と警備隊の皆に差し入れを持っていこうとピアは思う。少しでも、心を休ませることが出来ればと願って。
 地の魔法の力は、皆の進路、退路の確保に繋がる大切な能力。
 そして、生物に注ぐことで、生命力、回復力を高めるこの力は、仲間たちの体力回復を促す、大切な力。
 皆をより長く、支えられるだけの体力を得るために、ピアは日々、鍛練に努めていく。

 準備室にて。指導を終えたレイザの側で、アリスは器具の片付や資料をまとめなど、てきぱきと彼のサポートをこなしていた。
 自分とレイザ以外誰も居なくなった時に、アリスは訓練以外の――探検をした洞窟で発見した本と石板に関係する件について、レイザに問いかけた。
 ただ、その件に関してレイザは自分の口からは答えられないとアリスに説明をしようとはしなかった。
「それでは、照明などで使用してる魔法鉱石を集めて人工太陽で使ってる魔法動力変換機に風と水の力を注いで雨風を火山上部に発生させるとかできないでしょうか」
 火山対策としてアイディアを出してみるも、レイザは首を左右に振った。
「火山は障壁の外、海底にあるから洞窟を掘り進めて火口まで行くんだ」
 活動を抑えられるほどの開発はできず、唯一出来る方法が水の神殿の力だけ。
 その力は、この小さな世界を護るために使われていて、余力はない。
「それでな、魔法鉱石の採掘がされているわけだが、この地の魔法鉱石に頼るってことは、暴漢を大人しくさせるために、その暴漢に力を借りる……というようなことに、なりはしないだろうか……」
 そう言い、レイザは深く考え込む。
「……石板には、脱出方法などは書かれてなくて」
 アリスはアニサ――アーリー・オサードから話を聞いていたが、絶望はせず、未来への希望を抱き続けていた。
 アリスが写し取った石板に書かれていた言葉は、希望に繋がるものだった。
 だけれど……。それはレイザの未来に繋がらない希望。
「火山の鎮め方と、一族の皆様への謝罪が書かれていたようです」
 アーリーから聞いた話を記した紙を、アリスはレイザに渡した。
 椅子に座っている彼に、歩いて近づいて。
 火山を鎮める方法――アーリー曰く、彼女達が正しく死ぬ方法。
 レイザは受け取って、真剣に目を通す。
 アリスはすぐ側で彼を見ていた。
 そして、資料から目を離してレイザが顔を上げたその瞬間に。
 一気に、覆いかぶさるように、レイザの口に自分の口を重ねた。
 レイザが反応を示すより早く、アリスは彼から離れて、驚く彼に微笑みかけた。
「私、貴族に嫁ぐことに決めました。帰って来るか分からないクズ男の貴族さんが好きなんです」
「お前……」
 アリスはハート状の魔法鉱石がついた指輪を自分の左手の薬指にはめてみせた。
 子供達と洞窟を探索して発見した魔法鉱石から作られたアクセサリー……レイザからもらったものだ。
「レイザ先生には、代わりにこちらを」
 青地に星の刺繍入りのお守りをレイザに差し出す。
 彼は困ったような顔で見ていて、受け取ろうとはしなかったけれど、アリスは彼の手をとって、掌の中に入れて握らせる。
「どんな時も冷静でいられますように」
 リラックス効果のある、乾燥させたハーブが入っている。
「アリス……俺さ、王国に妻がいたんだ。愛人も30人ほどいて、それぞれに子どもがいてさ。他国にも現地妻というのがいて、それぞれ皆側に居る時だけ愛してるんだ」
 そんな彼の話を聞いても、アリスは笑みを絶やさない。
「そうですか、とんでもないクズ男さんなのですね。毎晩、その方々との面白いお話、聞かせてほしいです」
 彼女の言葉に、観念したかのようにレイザは苦笑する。
「……お前は、強いな。生きて、幸せになれ」
 立ち上がり、レイザはアリスの背に手を回して、愛しみを込めて優しく叩いた。
*  *  *


 翌朝。
 人工太陽打ち上げの協力のために、久しぶりに魔法学校に顔を出したレイザを、待ち構えていた者がいた。
 彼が館に帰ろうとした時に彼女――メリッサ・ガードナーはレイザに近づき、誰もいない林の中に誘った。
「いいよ。やり残し、しよう?」
 彼女の言葉に、レイザは訝しげに眉を顰めた。
「授からなかったらその時は、バートくんの代わりに連れてって」
「何の話だ」
「何って、お前俺の子を産むか? って言ったよね」
「……いつの話だよ。鎮めにいくまでもう数十日しかないだろ。今からでは遅い。出来たかどうか分かるわけがない」
 メリッサは既に火口に接近するメンバーに選ばれており、同行前提で作戦が立てられている。今から外れるとなると、仲間は勿論、選んでくれた人にも不義理ではないのかとレイザは少し強い口調で続けた。
「妊婦だって働けるよ、だからサポートはできる」
「連れていくわけがないだろ。自分の子を妊娠しているかもしれない女なら、洞窟の入り口にでさえ近づけさせない。別れは告げると言ったはずだ。縛りつけてでも安全な場所に置いていく」
 強い意志がこもった声だった。
 妊娠しているかどうかわからない。それでもおいていかれてしまう……不安な気持ちがメリッサの身体に渦巻いて行く。
「それに、俺は産んで欲しいとは言っていない。俺がそれを果たさなければならない使命だと思っているのなら、他の女ととっくに済ませているから必要ない。あの時は確かにそんな気になった。だがすぐに、取り消したはずだ」
「でもこの間、試しておかなくていいのか? って言ったよね!?」
「だから言葉通りだよ。産んでくれとは一言も言っていない。お前色事好きだろ? 俺と遊んでおかなくていいのかという意味で言ったんだ」
 メリッサは違うと、首を強く左右に振る。
「そうじゃないの。ずっと好き勝手生きてきたから欲張らない、マテオ・テーペに登れたらもういい、そう思っていたから。ええっと、最後の夢を叶えるために、その方法しか思いつかなかったの! 伯爵さんと……のことは、本意じゃないよ」
「お前、あの時俺のこと誘惑しようとしたよな? 知りもしない相手を、体で落そうとした。あれも演技か? どちらにせよ、目的を叶えるために身体を売れる女だということだ」
 どう説明をしたら、解ってもらえるのだろうか。
 メリッサが悲しみに満ちた目で、ただじっとレイザを見詰めていると……彼は軽くため息をついて呟いた。
「本当にそれだけの安い女だったら、好都合だった」
 全くメリッサを理解していない、というわけではないのかもしれない。
 メリッサはぐっと体に力を込めて、彼を睨みながら言う。
「レイザくんのことわかってないのはよーくわかった! もっとちゃんと知っておきたい、使命だけじゃなく全部」
 マテオ・テーペ登頂の為に必死になっていたあの時のように、メリッサはつかみかからんばかりの勢いでレイザにつめよる。
「ホントの気持ちも、もっとちゃんと全部、全部! このままじゃ一緒に悩むことすら出来ないもの!」
 怒りと悲しみの籠る眼で、メリッサはレイザを見詰める。
「私のこと、そんなふうに思ってたの……悲しいけど、そういうのも全部。好奇心じゃない。知っても私のアタマじゃ、良いアイディアなんて出せないけど、寄り添う事が出来る。苦しいことも、悲しいことも分かち合うことができるんだよ」
 彼の腕を掴んで、ぎゅっと握りしめる。
「どうして? どうして話してくれないの? 一族のこととか、レイザくんの本当の気持ちとか。皆に知られちゃいけないの? レイザくんに口止めされたこと、私誰にも言ってないよ」
 一瞬たりとも目を逸らさず、話してくれるまで放さないというように、腕を強く握りしめたまま、メリッサは彼を見つめ続けた。
 レイザの顔から表情が消えていく。
 そして……。
 何の感情も感じない真顔で、彼の口から淡々と言葉が流れ出した。
「一族の身体に証のあるものは、王国に差し出され、王国で実験に使われていた。
 母は姉を助けようと王国に逆らい殺され、王国の貴族だった父はその後王国で別の妻をめとった。
 祖母はその事実に耐えられなくなり自殺。
 姉は兵器稼働のエネルギー源として使われ、恐らく2年半前に死んだ。
 直系以外で、一族の力を持っていたものは、火属性の子を1人設けた時点で、皆偶然の事故で死んでいる。
 王国は一族を増やさず、絶やさず、反逆できないよう、コントロールしてきた。
 地上が滅んでいなければ、一族の子はそうしてまた狙われて、利用され続ける」
「レイザ様、出発のお時間です」
 従者がレイザを探す声と足音が響いてきた。
「今晩、温泉の休憩所に来い。
 お前が産むというのなら、もう二度と俺に近づくな。カモフラージュでもいい。他の男の女になれ」
 そう言い放つと、レイザはメリッサの手を振りほどいて去っていった。
*  *  *


 貴族のダメ息子、魔法学校生のロスティン・マイカンは、今日もメイドに会いに領主の館を訪れていた。
 だけれど今日の目的はいつもとは違う。
(いなくなって寂しい、か……)
 何故だろう。
 メイドのミーザ・ルマンダの言動、とくにその言葉が、ずっと気にかかっていた。
 それより少し前、馬車の御者台で聞いた話も。
 よく聞きとれなかったけれど、ミーザはどうも、破滅を説いていた女性、アーリーのことについて、人質になっていた少女と話していたようだった。
 このことがどうしても気になり、ロスティンは友人のウィリアムに相談を持ちかけていた。
 彼から火山のこと、火の特別な魔力を持った一族の事を聞き、彼女達の会話がなんとなくわかった。
 火の一族が滅んだら困る。生き延びてもらわなければならない……そんなことを言っていたのだと思う。多分。
 ロスティンはアーリーとミーザに話をする機会を設けられないかと考えたが、囚人であるアーリーとの面会の場を設けるほどの権限はロスティンにもウィリアムにもなく、ひとまずミーザと話をしてみようと、彼女を裏庭のベンチに呼び出した。
「こんにちは、ロスティンさん。今日はどうしたんですか?」
 休憩時間に現れた彼女は、いつものように可愛らしい笑顔をロスティンに向けてきた。
「こんにちは、ミーザちゃん。こちらへどうぞ」
「あ、今日は真面目モードなのですね」
「ん、大事な話だからね。手土産一つなくてごめん」
 ミーザはロスティンに促され、並んでベンチに腰かけた。
「火山を鎮める力を持つ一族の話、聞いたんだ。ミーザちゃんも知ってるんだよね?」
「どうしてそう思うんですか?」
「馬車であの子と良く話してるだろ? 聞いちゃったんだ」
「そうですか……」
 ミーザは少し複雑そうな顔で黙り込んだ。
 彼女から何かを聞けるような雰囲気でもなく、ロスティンは何をどう話せばいいのかわからず、考えながらゆっくりと語りだす。
「ミーザちゃんさ、箱船出来たら一緒に出ないか?」
「え?」
「ほら、この前義理の兄弟生きている人もいるかもと言ってたじゃないか。
 ここが生き残ってるんだ、他でも同様な場所があるだろうし、そこに避難できてないか探さないか?」
 ロスティンの言葉が意外だったらしく、ミーザは少し驚いた顔で彼を見ていた。
「俺、色々考えたりしたんだけどさ、ミーザちゃんがいなくなったら寂しく思うよ。
 それと同じ感じがミーザちゃんが家族にあるのなら、探して解消できないかな」
 ミーザの瞳が、寂しげに悲しげに揺らめく。
「あー、いや違うか。
 俺が寂しいから一緒に行かないか? 探しに行けるように頑張るからさ!」
「ありがとうございます。私もいつか箱船に乗って、海の上に行きたいです。
 でも、私たちメイドっていなくても良い存在なので、乗せてくれるとしても一番最後ですよね。ロスティンさんは貴族で、魔法学校生ということは魔法もお得意なのでしょうから、頑張れば早い段階で乗れますよ」
「確かに俺は、水の魔法が使えるけど……」
 ロスティンは眉を寄せて首を左右に振る。
「いや、俺こそ、必要じゃない人間だし。いつ乗れるか、それまでここが残っているか……。神殿や火山の方も問題あってこのままだとここだけじゃなく世界全体に悪影響出るらしいんだよな。俺にも何かできること、あるのか?」
「ありますよ。ナンパに費やしている時間に、体力トレーニングをすると良いですよ。ロスティンさん、健康な若い男性ですし、家族やお友達のために頑張ろうって思えば、凄い力になれるはずです」
「んー、そうか……」
「私、外れの館で行われている魔法訓練に参加してて、火山対策に誘われてるんですけれど、ロスティンさんも来ませんか? うん、ロスティンさんが来るのなら行きます! メイドとして貴族の皆さんにこき使われてきたので、体力には自信ありますから、ロスティンさんや皆さんのサポートできますよ」
 ミーザはロスティンにそう微笑みかけた。
 微笑みの裏にある真の感情は表に出さないまま。


第2章 水の神殿

 警備隊による火山対策が進められる中、水の神殿では、初代神殿長の子孫であるサーナ・シフレアンを中心とした、調査が行われることになった。
 ただし、混乱をもたらさぬよう、サーナの身分は隠されいてる。
 多忙なバートに代わり、警備隊からはナイト・ゲイルが付き添うこととなった。
 勿論、サーナが騎士として絶大な信頼を寄せているラトヴィッジ・オールウィンは常にサーナの傍らにいる。
 そして、彼らとは別に、アシル・メイユール伯爵直属の青年騎士も一人、サーナに同行していた。
「こちらの一画は、前神殿長とそのご家族の私室となっていまして、立ち入ることはできませんでした」
 神殿長のナディア・タスカが案内した先は、前神殿長の一家が暮らしていた居住区だった。
「私の部屋もこの先にありました」
「サーナ様! サーナ様ですよね!?」
 部屋へと進もうとしたサーナのもとに、使用人と思われる老婆が駆け寄ってきた。
「あっ……ケミスさん、お久し、ぶりです……」
 サーナの目に、じわりと涙が浮かんでいく。
 彼女がここにいた頃から、働いている使用人のようだった。
「ご主人様とご家族がお戻りになるのを、ずっと待っていました……」
 老婆も涙を浮かべて、サーナの帰還を喜んでいた。
「ラトヴィッジ・オールウィン。サーナの護衛をしています。家政婦さん、かな?」
 ラトヴィッジが挨拶をしつつ、サーナに尋ねると、サーナはこくんと頷いた。
「私が生まれる前から、お世話をしてくれてる方です」
「旦那様達の私室を調査するという話を聞いて、待機していたんです。そのような無礼な事が許されるはずありませんから! ですが、サーナ様が調査されるというのなら、勿論私達も喜んで協力させていただきます」
 彼女の他にも、使用人の服を纏った年配の男女が集まってきて、サーナの帰還を喜んでいた。
「かなり部屋があるな……手分けして探そう。人手が足りない、監視だけではなく、協力もしていただけないだろうか?」
 ラトヴィッジが監視の青年騎士に尋ねると「無論そのつもりだ」と、青年騎士は柔和な顔で答えた。
 ……好印象に見えるが、油断はできない。と、ナイトは考える。
 神殿に伯爵達にとって都合の悪い情報が隠されてないとは限らないからだ。
 とはいえ、一か所に固まって調査をしている余裕はない。
「私室の調査は、彼女に任せた方がよさそうだな」
 ナイトは彼女達にその場は任せることにして、ナディアに問いかける。
「普段、人の立ち入らない場所や、神殿長以上じゃないと入れないような場所も調査させていただきたいです。ただ、お……私には魔力がないので、どなたか協力していただける方がいるとありがたいです」
「それでしたら、他にも調査に名乗り出てくれた方がいるので……同行をお願いできればと思います。ただ」
 ナディアはそっとナイトに耳打ちする。
「伯爵と懇意と思われる、フレン・ソリアーノ男爵のご子息ですので」
 軽く注意しておいた方が良いという意味だろうと、ナイトは理解した。
「この状況での神殿長という立場は苦労も多いでしょう。何かあれば力になります、遠慮なく言って下さい」
 ナイトがそうお辞儀をすると、ナディアは淡い笑みを見せて、お辞儀を返した。
「ありがとうございます。今、ここに生きている全ての人のために、どうか力を貸してください」
*  *  *


 使用人たちの案内のもと、サーナ、ラトヴィッジ、それから貴族のマーガレット・ヘイルシャムは、前神殿長や家族、初代神殿長たちの私室を見て回った。
「サーナさん、神殿長に伝わる秘伝の書とやらの場所は当然分かっているのですよね」
 サーナの隣で、にっこりマーガレットが微笑むと、サーナの顔が一気に緊張を帯びる。
「曽祖父様や、伯父様たちの日記のようなものが、あれば……」
「あれば、ですか? 存在していると知っているわけではなく?」
「ごめんなさい……曽祖父様も使ってた書斎と、伯父様の寝室を調べたらどうかなって……」
 にこにこ微笑んでいるマーガレットの存在に、サーナはすっかり萎縮しているようだった。
「とりあえず、手分けして探そう」
 そう言って、ラトヴィッジは青年騎士とマーガレットに寝室の調査を頼み、自分とサーナは書斎へと入る。
 書斎の多くの扉やケースには魔法の鍵がかかっていた。
「鍵のかかってないところにある本や魔法具っぽいものを、俺は集めてみるよ」
 魔法鍵の方はサーナに任せ、ラトヴィッジは手書きの書類や道具類を集めていく。
「んー……」
 開錠の仕組みは難しいらしく、サーナはかなり手間取っていた。
 ようやく開いたケースの中には、貴金属が入っていて。
「魔法具じゃないけど……大切なものだったのかもしれない」
 中に入っていた指輪を手に取り、サーナが言った。
 大切にケースの中に戻し、続いてラトヴィッジが並べた書類や道具を一つ一つ調べていく。
「不謹慎かもしれないけど……宝探しみたいだな」
 ラトヴィッジのそんな言葉に、サーナは不思議そうな顔をする。
「サーナと力を合わせて何か出来るっていうのもいい。サーナは小さい頃やらなかった? 宝探しやかくれんぼ」
「そういえば……うん、やった。バートに見つけてもらったりしたわ」
「そんな思い出の中に、ヒントがあるかも」
 手を動かしながら、ラトヴィッジはサーナに神殿で過ごしていた頃のことを訪ねていく。
「親族の中に、同じ年頃の子はいなくて。だから、神殿に来た町の子とよく遊んだりしてて……バートの弟たちと、かくれんぼしたり、鬼ごっこして、神殿の中駆けまわって、よく怒られた。騎士見習いのお兄ちゃんたちに、付きまとって、仕事の邪魔して、肩車してもらったり、馬になれ……ううん、馬になってとせがんでなってもらったり」
 言いながらサーナは少し赤くなっていた。
 彼女にとって恥ずかしい過去も含まれているようだ。
「俺はさー」
 彼女が話しやすいよう、ラトヴィッジは自分の過去についても話す。
 父に連れられ初めて騎士として出向いた日のこと。サーナを初めて見た時の事――。
 神殿で過ごした日々が、2人の脳裏に思い浮かぶ。
 思い出に出てこない場所――立ち入れなかった場所。
 そこに、ヒントはあるのかもしれない。

 神殿の地下にある、今は使われていない倉庫に、ナイトは訪れていた、
 倉庫はかなりの広さがあり、頑丈な造りだった。
 数十年分の道具や書類がぎっしりと収納されている。
「奥の方は、凄く埃だらけだね。リック、吸い込まないように気を付けてね」
 手伝いを申し出たイリス・リーネルトが、後ろにいるリックに声をかけた。
「イリスも、無茶な事しないでね。重い物とかは騎士団の……ええっと」
 リックが入口付近にいるナイトに目を向けた。
「ナイト・ゲイルだ」
「うん、ナイトさんが持ってくれるよ!」
 だけれど、大人の男性の体格のナイトが奥の方に入るには、入口付近の荷物をどかす必要があり、どかせる場所などないため、地上階に運ばなければならない……というかなり調査しにくい環境だった。
「よろしくお願いします」
 ぺこりとナイトに頭をさげてから、イリスは狭い通路を横向きで歩き、リックと共に奥へと進んでいく。
「んんーと、古い置物とか、備品とかは必要ない……と思えて、こういうのの中に秘密の地図とか、秘密文書とか隠れてるんだよね」
「そうそう、怪しい書類は勿論として、隠し扉とかがないかも調べてみないと」
 イリスは協力を申し出た際に、ナディアからこの部屋にどこからか子供が入り込んでいたことがあるという話を聞いていた。
 読めない書類や本をリックが持ち、ナイトのもとへと運び、イリスは奥にしまわれているものをひとつひとつじっくりと調べていく。
 鍵がかかっているものは、基本的にはナディアの許可を得て、ナイトが鍵を破壊したが、簡単な魔法鍵がかけられた箱は、ほぼイリスが開錠できた。
「……イリス凄いね。僕も魔法得意だけれど、イリスには適わないなぁ。でも無理しないでね」
「うん、大丈夫。時々休憩挟みながら、頑張ろうね」
 互いを気遣い合い、一生懸命調査に取り組む年下の可愛いカップルの姿に、ナイトの心が少し和む。
 彼女達を護る。彼女達を護ろうとする者達をも殺させない。
(火山を抑え、残る人たちの安全を確保しつつ、箱舟が出航出来る手段がある筈。絶対に見つけ出す!)
 変わらない決意を胸に、その手段を探していく。

 広間の一つに、解読が必要そうな書類や、魔法的効果のありそうな道具が集められた。
 初代神殿長が書いた書物は、当時王国の上流階級で使われていた古い文字で書かれており、ナディアや使用人達には読むことが出来なかった。
 両親から習っており多少知識のあるサーナと、深い知識を持つマーガレットだけ、簡単な文字を読むことが出来た。
「この間は少し言葉が過ぎました。ごめんなさいね」
 解読の合間に、マーガレットはそうサーナに声をかけた。
 サーナがマーガレットに向けた目は警戒心溢れるものであり、当然の反応ですねと、マーガレットは心の中で苦笑した。
「私情で大人げないことをしてしまいました」
「…………」
「火山組に入っているカスタル卿の心配もありますが、実は貴女の友人のアーリーの傍にいるウィリアムは、鍋の絆で結ばれた私の友人の一人です」
 鍋の絆というものがどういうものなのかさっぱり分からなかったが、仲の良い友達なのだろうとサーナは思った。
「彼からアーリーの話を聞いて、町民会議で貴女たちとの事前折衝をカスタル卿に提案したのは私なのです」
「それで、バートはあなたを私のところに、連れてきたのね。私のことお嫌いなのに協力してくださって、ありがとうございます」
 サーナはすっとマーガレットから目を逸らす。
「貴女はアーリーを死なせたくはないでしょう? 私はカスタル卿やウィリアムに無事に帰ってきてもらいたい」
「帰ってきてもらいたいって? バートも火山に行くんですか?」
「決定ではないようですが……人手が足りないようですので」
 マーガレットの言葉に、サーナの顔が不安そうに曇っていく。
「足りない知識を補い、こうして作業を進めていることで、解読も進んでいます」
 そしてマーガレットは微笑んでこう続けた。
「だから、私たち、いいコンビになれると思うのよ」
 サーナは顔を上げてマーガレットを見て。
 これまでとは違う、優しさの感じる微笑みに安堵感を覚えて、こくりと首を縦に振った。
「休憩にしようか。お茶を淹れてきた」
 ラトヴィッジがトレーにお茶を乗せて、部屋に戻ってきた。
「これ、差し入れ。お茶菓子にどうぞ」
 イリスもお茶の入ったカップと、差し入れに持ってきたクッキーをトレーに乗せて、部屋に入ってきた。
 青年騎士とナイトもナディアを伴い訪れて、ソファーに腰かける。
 一同は、休息と進捗を報告し合う事にした。
 ナイトは密かにマーガレットやナディアにも確認したが、青年騎士は基本的には監視しているだけで、指示がなければ自ら調査を手伝ったり口を挟むことはないようだった。監視と護衛という騎士の領分を守っているらしい。
「はい、どうぞ」
「美味しそう、それに可愛い」
 リックの顔に笑みが広がる。
 イリスが持ってきたクッキーは、ナッツ類とドライフルーツを抱っこしたクマクッキーだった。
「ねえ、ナディアさん。マテオ・テーペの岩の形が伝承に出てくる岩に似てるのは、偶然なのかな?」
 お茶を飲みながら、イリスがナディアに尋ねた。
「どうしてですか?」
 ナディアは不思議そうに聞き返す。 
「もし意味があるなら、伝承は水の神殿や火山に何か関係があるのかなって思って」
 そんなイリスの疑問に、ナディアは少し考えた後、首を横に振った。
「もしかしたら、関係はあるかもしれませんが、マテオ・テーペの伝承は歴史とは無関係な作り話だと思います」
 無関係でも、興味あるなとイリスは思う。
 だけれど、今回の調査に繋がるものではなさそうだった。
「書物の解読の方は?」
 ナイトがサーナとマーガレットに尋ねる。
「倉庫にあった初代神殿長の日誌なのですが、神殿が出来てしばらくしてからのもので、あまり重要なことは書かれていませんでした。1冊目があれば、何かわかったかもしれませんが……」
「書庫の奥にあった魔法扉の先にしまわれていた本の解読を今、マーガレットさんと進めているところです。神殿の仕組みについて書かれているようです」
 マーガレットとサーナがそれぞれ答えた。
「あ、そういえば、古い地図を見つけたの」
 思い出して、イリスはポケットに入れていた地図を取り出した。
「……王国周辺の地図のようですね。これは作成日でしょうか」
 地形と記されている文字から、マーガレットはそう判断した。
 記されていた日付は100年前だった。
 この辺りについては、海岸線だけが記されている。そして王都とこの辺りを結ぶ地に、大きなバツ印が記されている。
「火山の場所だな。こっち方面に掘り進めてるって聞いている」
 覗き込んで、ナイトが言った。
 バツ印の周囲は黒く塗りつぶされている。かなりの範囲だった。
「火山噴火で滅んだ範囲でしょうか。海底にある今も、同様の影響があるとは言えませんが……」
 どちらにしても、噴火させてしまったら水の障壁で防ぐことは不可能であり、この辺りは完全に沈んでしまうだろうと思えた。

 その後も、倉庫ではナイトが書物を運びだし、イリスとリックが道具に魔法的な効果がないかどうか調べるといった作業が行われていく。
「ん?」
 ナイトが大きな置物をどかすと、その下に正方形の扉が存在していた。
「この下にも収納庫が……?」
 取手を引っ張ってみたが開かない。
「あっ、魔法がかかってるみたい?」
 覗き込んでリックが言い。
「わたし、やってみるね」
 イリスがナイトと代わって、取手を掴み、精神を集中する。
 ……思いのほか簡単に鍵は解けた。随分昔にかけられたもののようで、効果はほぼ消えかかっていたようだ。
 扉をパコッと開くと、土の香りがした。
 ナイトがランタンを近づけると、ハシゴが見えた。
「魔法的な力は感じられないか?」
「……特に感じないよ」
 イリスの言葉を聞き、ナイトはランタンを腰に提げると、ハシゴを下りて地下収納庫に下りてみた。
「収納スペースにしては広すぎるな」
 作りかけの部屋だろうか。小会議室くらいのスペースがある。
 中央に石の台座があるだけで、そこには他に何も存在していなかった。
 と、その時。
 カタカタと物が揺れ出し、直後に部屋が大きく揺れた。
 頻繁に起きている地震――火山性のものだ。
「イリス!」
 よろめいたイリスを抱き留めて、リックは尻もちをついた。
「ありがとうリック、大丈夫?」
「大丈夫だよ」
 転んじゃって恥ずかしいと、リックは笑った。
 未来への不安もあるけれど……生き延びて、地上で暮らせるようになったとしても。
(大人になっても、ずっと一緒にいられるのかな)
 そう考えてしまい、イリスは時々辛くなってしまう。
 リックは貴族で、しかも父親の身分は男爵。だけど、自分は貴族でさえない、平民だから。
 不安が顔に出てしまったのか、リックは心配そうにイリスに「心配いらないよ」と声をかけて、手をぎゅっと握ってきた。
「大丈夫か?」
 ナイトが梯子を上って、戻ってきた。
「地震で荷物が崩れないよう注意しないとな」
 ナイトの言葉に、イリスとリックは手を繋いだまま「はい」と返事をした。


第3章 準備

 領主の館の外れにある、堅牢な館の地下にて、魔法薬の研究が進められていた。
「はああああああ……」
 部屋の主である老人が深いため息をつく。
「何故女子が来んのじゃ……。薬は女子も使うのじゃろ?」
「まあそうだが、皆それなりに準備や訓練で忙しくしてんだよ」
 傍らで作業に励んでいるのは、リベル・オウス。薬師の少年だ。
「小童よ。お主は彼女もおらんのか! おるんなら連れてこんか」
「じじい……触れてはならぬことに触れてしまったようだな。というかな、いたとしても大切な娘をセクハラする気満々なじじいのところになんか連れてこれるかよ」
 リベルがめんどくさそうにそう答えると、老人は再び大きなため息をついた。
「ところで、何作ってんだ? 薬じゃないよな」
 このところ、老人は薬の作成をリベルに任せ、自身は魔法鉱石を使った道具の作成をしているようだった。
 レイザから預かった魔法鉱石はほぼ魔法薬の材料として使用されるため、材料は領主の館に残っていた照明用の魔法具などから集めた魔法鉱石だ。
「魔力の調整具じゃよ。何かに使えるじゃろうて」
「調整具? どんなふうに使うんだ」
 老人は細かく砕いた魔法鉱石を、溶かした鉱石と混ぜて固めて、三角錐状の物体を作りだしていた。
「魔法具は大きく分けて、2タイプあるのはしっておるか?」
「……よく知らん」
 リベル達一般人が使ったことのある魔法具といえば、照明具や料理器具などだが、それも裕福な家で見かけることがあるかないかというレベルであり、一般家庭に普及してはいなかった。
「一般的なのは、鉱石に含まれたエネルギーを利用するものじゃ」
 鉱石自体を原料とするものや、鉱石に魔力を注ぐことで発動するものがこれにあたる。
「このマテオ・テーペ内で使われている魔法具、魔法装置の全てもこのタイプのものじゃ」
「で、これはもう一つのタイプの魔法具というわけか? どう違うんだ」
「これは、この魔法具を媒介に周囲の魔力エネルギーを利用する装置なんじゃ」
 大気や生物の中に存在する魔力エネルギーに働きかけて、魔法効果を発動する魔法具、ということらしい。
「魔力のある者なら広範囲の魔力エネルギーを利用できるんじゃが、1つの意思で働きかけなければ、制御ができん。且つ、使用者は相当の負担を強いられる扱いの難しい魔法具じゃよ」
「それでそれは、いつ頃出来るんだ? 火山対策に使えそうか?」
「あともう少しで調整は終わるんじゃが、火山に持ち込む為に作っているのではなく、火山や箱船出航の際に受ける影響を軽減するために作っておる。小僧に依頼されてな」
 小僧とはレイザのことのようだ。
「ふーん。とりあえず、火山対策は主に薬で対処するしかなさそうだな」
 リベルは鞄を手に取ると、中に試薬をつめていく。
「そろそろ対策会議の時間だ。ちと説明に行ってくる」
「おう、美女の土産を頼む」
「へいへい」
 適当に返事をすると、リベルは部屋を後にして、会議が行われる造船所近くのログハウスへと向かった。
*  *  *


 火山対策会議が行われる少し前。
 会場の準備をしていたバート・カスタルのもとに、アウロラ・メルクリアストゥーニャ・ルムナと共に訪れた。
「トゥーニャちゃんと一緒に、火山深部に行けないかと思って、相談に来ました。ウィリアムの紹介です」
「深部……うーん。君は魔法制御訓練に参加していたよね。レイザから道中協力者候補として名前が上がっていたんだが。まず動機を聞こうか」
 アウロラの能力については、バートも多少知ってはいるらしい。
「ウィリアムから会議の結果を聞いてこのままじゃ手が足りないんじゃないかって思って。その時、私なら力になれるんじゃないって思ったの。私はトゥーニャちゃんと親しいし地の魔法で回復ができるから。体力は十分、魔力は人並みだけど魔道具か魔法薬でのブーストも視野に入れれば十分行けると思う。トゥーニャちゃんの魔法の力はすこぶる優秀だから体力をカバーすることができるなら大きな力になるはず」
「回復し続けてもらうことで、どれだけ周囲に風の防壁を張り続けられるかの確認はまだなんだけれど、薬を分けてもらえたら試してみたいと思ってるよ。体力を向上させる魔法具もあるなら、使わせてほしいな!」
「だから私とトゥーニャちゃんの、深部への同行を許可してください」
 そう言って、アウロラはバートに頭を下げ、彼女にならってトゥーニャも頭を下げた。
「道中の協力はとてもありがたいんだけれど、深部の中というのはマグマの中なんだ。だけれど現状熱対策が皆無で……君達の場合、残念ながら接近も出来ない」
 バートは申し訳なさそうに説明をしていく。
 アウロラの魔力では、トゥーニャと能力差がありすぎて、増幅してもトゥーニャが必要とする分を注ぎ続けるのは難しい。
 また魔法薬は一種類しか使えず、魔力増幅薬を服用した場合、熱対策の魔法薬が服用できなくなるため、深部は勿論のこと接近もできない。
 魔法具は通常の魔法と同様に魔力をもちいて使うものであり、発動に集中を必要とする。そのためトゥーニャに魔力を注ぎながら魔法具を発動することができないし、魔力や体力を自動回復する魔法具は少なくてもマテオ・テーペの中には存在していない。
 一時的に魔力を増幅する魔法具も存在するが、発動した後の魔法の威力を上げることはできてもトゥーニャの身体に受け入れるだけの容量はなく、魔法具使用後術者は消耗するため、アウロラの体力がもたなくなる。
 それから洞窟は悪路であり、義足のアウロラは人一倍体力を消費すると思われるし、トゥーニャは自力で深部から帰還できるだけの体力がなく、2人を背負える人員もいない。
 熱対策の面がクリアできたとしても、アウロラ、トゥーニャのコンビでの深部同行は難しいだろうとバートは言った。
「風の術者については、騎士団からも人員を避けるんだが、正直水の魔術師の手が足りないんだ」
 騎士団員や一般人であっても、水魔術が得意なものは、水の障壁維持に協力をしている。
「熱対策は、ウィリアムと同じ方法でどうにかならない?」
「火……もしくはそれ以上の高温の中、火の特殊能力者が魔法で守れる人数はそう多くはない。呼吸を止めていられる時間、自分の他に2人くらいなら出来そうだとのことだ」
 特殊能力者1人と、指揮者であるレイザ、ウィリアム、道を維持するバートの3人の男性の同行が既に決まっているため、能力者は魔力増幅薬を飲んで、3人の男性を熱から守る予定とのことだ。
「それって……帰ってこれないよね?」
 深部で何が行われるのかまでは、ウィリアムからは聞いていない。
 だが、ウィリアム以外は火山を鎮めるために必要な力を使うと思われる。
 とするならば……限られた僅かな時間の中、特殊な力を使う能力者プラス2人の男性をウィリアムが背負って戻ってくることなど、出来るわけがない。
「ギリギリまで対策を考えてみるよ。それで、可能な範囲までの同行は是非頼みたい。連携については、メンバーで集まって検討してみたらどうだ?」
 一般参加者の中では、恐らくはメリッサ・ガードナー、彼女が鍵となるだろうとバートは言った。
 悪路を歩きなれており、魔力体力に秀で、指揮者であるレイザとの信頼関係が築けているようである彼女ならば、トゥーニャに魔力を注ぎつつ背負って接近することが出来るだろう。
 深部までは進めずとも風の防壁の範囲を細めて伸ばして後方から出来る限り深部に向かうものを守る事が出来ると思われる。
 アウロラは魔力増幅薬を使用し、深部に行く者と接近者たちが体力を維持できるよう、道中のサポートをしてくれても助かるし、熱対策の魔法薬を飲んで、接近して皆の回復に努めてくれても助かる、と話した直後、バートは首を左右に振った。
「とはいえ、レイザの話では、メリッサが後方支援を担当する可能性はないと思われる」
 ため息をついて、バートはこう続けた。
「ならば、接近まではアウロラ。接近してからはピアにトゥーニャのサポートを頼めば……いやそれだと、マグマの流出抑える地魔法能力者がいなくなる、か」
 バートは眉間に皺を寄せて考え込むが、現状良案は浮かばなかった。
「んーそれとね。やっぱり、体力を防壁のために使いたいから、背負って運んでもらうのが良いと思うんだ。トルテを参加させることできないかな? 以前背負って移動してくれたこともあるんだ。受け入れてくれるかはわからないけど、説得もしてみるよ」
 説得に応じてくれたら連携が出来ると思うと、トゥーニャは悪気なくバートに語った。
 途端、バートの顔が険しくなる。
「君は彼等との決別を約束し、納得して、無罪となったはずだ」
 これ以上その話については何も語らないというように、バートは顔を背けた。
 ……深部同行者発表の時にも若干感じていたことだが、この件に関してバートや騎士団とトゥーニャとの間にできた溝は埋まりそうになかった。
「んーと、深部に近づく人が増えると、その分魔法で守らなければならない範囲が広くなるし、道も広くしなきゃならない。狭い道を団子状態で進んでも良いことないし、体の大きな人が前にいたら、先は何も見えなくなって魔法も上手く使えないかな……」
 アウロラも自分のできることを深く考えてみるけれど、現状では決められなかった。

「マジかよ、大丈夫なのか!?」
 会議場に訪れたリベルは、バートから語られた現状に、唖然とした。
「いやあ……まあ、犠牲前提で臨めばとりあえず安定させることは出来そうなんだけどな」
 苦笑しながら、バートは答える。
 洞窟の掘り進め作業、魔法鉱石探索は成果を上げているものの、肝心の火山深部方面の対策については進展がみられなかった。
「今日は薬の説明に来てくれたんだよな? 頼む」
「ああ、そうだな」
 リベルは集まった人々の前に出て、自分が提案した魔法薬、作成中の魔法薬について説明を始める。
「試薬を服用してみたデーターだ。調合に関わっている薬師が少ないんで、俺のデータだけだ」
 自分以外のデータも欲しかったが、他にレイザが人材を連れてこなかったのだから、仕方がない! と話を進める。
「服用するメンバーの能力についても、概ね聞いてはいる。薬ごとの適量を記しておいた。魔力増幅薬については、試薬も持ってきたから、今のうちに試してみるといい。あと、俺が普段使っている気付け薬も入れておく。なかなかキくから疲れた時にオススメだ」
 気付け薬は魔法薬ではないので、一緒に飲んでも効果があるはずた。
「各々、薬は用法用量を守って正しく服用しろ。守らなかった時の心身の異常は自己責任だ」
 それからと、リベルはバートに目を向けた。
「強力な薬を飲むのは、お前だよな? だが、明らかにお前は疲労困憊状態だ。そんな奴がのんでいいモンじゃねぇ」
「そうは言ってもやるしかない」
「服用するっていうんなら、最低でも十分な睡眠をとって万全の状態で飲むこと。それでも、無理をすれば命の危険さえある薬だ」
 今の状態では、自分が作った気付け薬さえも、バートには毒になるだろうとリベルは語った。
「無駄死にすると解ってて渡せるもんじゃねえ。これは譲れねえぞ」
 厳しい目でリベルが言うと、バートは弱弱しく息をついた。
「町の問題も、神殿のことも、仲間や町の人たちが動いてくれている。俺はこの件に集中できそうだから……出来るだけ、休ませてもらうよ」
「休め! と言いたいところだが、あっちもこっちも人員不足なようだからな、どうしたものか」
 とにかく、自分は自分の役目を果たした。ということで、リベルは館の老人のもとに情報を持ち帰ることにした。
 リベルとて、無駄話をしている暇はないのだ。

 会議終了後、深部に行くことが決定している者――レイザ・インダー、アーリー・オサード、ウィリアムは領主の館の外れの館にある、アーリーとウィリアムが収容されている部屋に集まって、相談を行うこととした。
 リベルの話もあり、バートには休養をとってもらうこととなり、後程報告だけ行うことを約束してある。
「神殿の調査に行っているナイトから頼みごとを受けたんだが」
 ウィリアムは神殿調査の進捗についてレイザに話し、それからこう尋ねた。
「ナイトの使いで、レイザの婆さんの遺言状の内容が知りたい」
 ウィリアムの言葉に、レイザは訝しげな顔をする。
 ナイトは、バートの代わりとして昼夜神殿で調査に明け暮れている。
 館に戻ってくることが難しいため、ウィリアムに頼んだということだ。
「ナイトを焚き付けたんだろ? 教えてやれよ」
「その話、どこで……ああ、アシルさんか」
 ため息をつき、レイザはこう続けた。
「アシルさんの伯母である、俺の祖母の遺書は確かにある。だが、神殿調査や火山対策に役立つ内容ではない」
 ナイトの『子供を犠牲にした聖女の子供はその後どうしたのか』という質問に対しての返事として、アシルはそれは祖母の遺言状を持つレイザしか知らないと、ナイトに話したのだった。
 ウィリアムがレイザにそう説明をすると、レイザは不本意そうに話しだした。
「この地を滅びに導いた聖女の子供――俺の先祖は、この辺りを領地とした王国貴族の子として育てられ、この地を管理する立場に置かれた」
 聖女の子供は、一男2女を儲け、長女には痣があった。
「聖女の子供は、痣を持って生まれた長女と共におよそ80年前に、火山に身を投じて、鎮めた――概ね、アーリー・オサードの曽祖父の手記に書かれていた通りだ」
 その後、水の神殿が設けられ、聖女――継承者が火山を鎮めることはなくなった、とのことだった。
「遺書は見せられないが、あとで本を預ける。初代神殿長が記した日誌を翻訳したものだ」
 レイザはウィリアムに簡単に、その日誌の入手経路について話した。
 洞窟を探索していた魔法学校の子供たちが、通気口と思われる狭い道から神殿の倉庫に入り込んで、見つけたということを。
「わかった。それはナイトに渡しておく。
 それでさ、炎で会話する方法って教えてもらえるか?
 生贄っていうのは、取引だろ?
 実際に害があるなら、実際意思が存在するはずだ、アーリー、魔力が自然なら、魔力と火山の奥に居るものは関係があるんじゃないか?」
 言葉が通じなくても、魔力を通しての会話なら、意思疎通ができるかもしれないと、ウィリアムは2人に自分の考えを話した。
「聖女は意思のあるものに捧げる『生贄』とは違うと思うわ」
 答えたのはアーリーだった。
「火山の奥、マグマの中では生物は存在できないし、魔力に意思というものは存在しない」
 魔力のよって起こされたものであれ、自然現象であれ、風や水に対して擬人法をもちいることもあるが、実際に風や水、そして魔力のような無生物に意思というものが存在しているわけではない。
「もしかしたら……」
 アーリーは少し考え込んでこう続けた。
「だからきっと、そう。意思をもった存在が必要なのよ。溜まっている魔力を解放するために」
 本当のことは、行ってみないとわからないし、帰り道はないんだけれどね、と。
 アーリーは冷ややかな笑みを浮かべた。
「あと、魔力に声を乗せることが出来る能力は、継承者の一族だけの能力だから、お前は会得することはできない」
 レイザはウィリアムにこう説明をした。
 継承者の能力は、同属性の者の身体を通すことが出来るため、ウィリアムとアーリーの肌が触れ合っている状態で、アーリーがウィリアムを通して誰かを一族の能力で守ることは出来る。
 その場合、あくまで魔法を使用するのは及び魔力を消費するのはアーリーだけだ。
 またウィリアムの声を炎に乗せることはアーリーやレイザも可能だが、灼熱から複数人を守りながら、別の術も発動するとなるとかなり消費が激しいだろう、と。
 打開策が見つからない。
 ウィリアムは深く考え込む。
「……そういえば、何かの解読をしてたよな。火山の奴の情報ないか?」
 ウィリアムがアーリーに問いかけると、アーリーはくすりと冷たく微笑みながら、語った。
「石板に記されていたのは、正しい火山の鎮め方。聖女が地上から身を投げる他に、地下道からも接近し、サポートが行われていたみたい。それから、王国から戻ってきた聖女の謝罪の言葉」
 過去は山の上から、聖女たちは火山に飛び込んでいた。
 記されていたのはその方法であり、つまりそれは、私たちの正しい死に方よと、アーリーは暗い目で笑う。
「今回はそのサポートに使われていた地下道から行くわけだよな。そこからどんな風にサポートが行われていたんだ?」
「一族の力に呼応する媒介となる石を使って、エネルギーを送っていたというようなことが書かれていたけれど、その石の行方はわからないし、あっても何が変わるわけではないわ」
「そうか、それでも力を送る事ができるという情報はありがたい」
 ウィリアムはそう言いはしたが、現状、僅かな希望さえも見えない状態であることに、変わりは無かった。
*  *  *


 拡張、掘削工事が続く洞窟では、魔法鉱石の探索だけでなく火山へのルート確保も行われていた。
 実際のところこちらには、鉱石探索側以上の人員が投入されている。それだけ火山へのルート確保は大変な作業だった。地属性の魔法が使えるものはそれを掘削や補強などの作業に応用しているが、多くの人員は手作業でそれらの作業をおこなっているからだ。
 ただ、そんな状況でも人が入り乱れて指揮系統が混乱し、能率が下がるといったことはあまり起きていない。
 一人の男が、先頭を切って作業しつつ、現場での指示もこなしていたからだった。
「まずは岩石の除去、足場の確保だ。俺が大きく拓いていくから、後に続く者が細かい整地を頼む。ずりの運搬は手押し車を使ってどんどん進めてくれ!」
 その男、エイディン・バルドバルは今も掘削現場の最奥部でそう声を張り上げていた。そして、指示をした後は自らも掘削作業に入る。魔法を使ってのサポートはできないが、体力と筋力には自身があった。
 それ以外にも崩落の危険があると気づいた場所には丸太で支保工を作るよう指示し、矢板もあてがってなるべく崩落事故が起こらないようにしていく。掘削現場までランタンなどを置いてルートの安全を確保することを指示したのも彼だった。
 おかげで作業は想定以上のスピードで順調に進んでいる。
 トラブルもおそらく最小限で済んでいた。途中、何度か火山性と思われるガスが噴出することがあったが、同行している者たちのうち魔法が使える者が対処してくれているので、幸いにもそれによる被害者などは出ていない。
 ただ、一方で周囲から見ると心配な点もあった。いくらエイディンに体力があるとはいえ、現場作業に指示にと働き過ぎるのだ。
「そろそろ、いったん休んでくれ。こっちはしばらく俺らだけでもやれるから」
 今日も休みなしで働き続けたエイディンは、周囲からそういわれてようやく休憩に入る。
 洞窟を出て、青空……もとい、人工太陽が照らす中に戻り、一息ついた。そういえば今日はまだ食事をとっていない、と思い、持ち込んだ食料を広げる。
 山の頂の方を見上げる。山にも意志があると言っていたのは誰だったか。その言葉が気になって、本格的な作業が始まる前に山に貴重な酒をほんの少し捧げたのを思い出す。
 ――お前の懐に人を送り届けなければならないらしい。その身に刃を突き立てる無礼、許してくれ。
 それは、その時に山に投げかけた言葉だ。山に意志があるわけではないだろうが、こういうのは礼儀の問題、ひいては自分自身の心の問題だ。全力を出すためにも必要なことだったとエイディンは思う。
「そろそろ戻るか」
 誰に言うでもなく立ち上がると、エイディンは洞窟の中へと戻っていった。
 その後も彼の貢献により工事は順調に進んでいった。だが、まだ火山へは辿りついてはいない。
 工事は、尚も続いていく。
*  *  *


 地震の頻度がさらに増し、火口突入の決行が近づいたある日。
 シャンティア・グティスマーレは再び、アーリー・オサードとの面会を求めた。
 シャンティアが求めると、アーリーはしぶしぶといった様子だが必ず応じ、彼女の前に憮然とした姿を見せる。
「この間の本、読んでくれ……ました?」
「ああ、あれね……」
「あの本は魔法基礎を基軸にしながらも複合的な組み合わせで高度な効果を得る為の構築論に関する項目がとても面白いのです」
 目を泳がせるアーリーに、シャンティアは未だかつてアーリーが見たこともない勢いで話し始めた。
「単純に一つの大きな魔法を使うのと違い同じ力で大規模な事できなくても応用がとても効いて、例えば水を集め圧縮し個体のような状態にして同時に……あ、この時やり過ぎると水温が沸騰温度より熱くなるから気をつ……話しが逸れました。それで水の――」
 その後、水の性質やら魔法構築やら理論やら、アーリーにはさっぱり意味の分からない話を、シャンティアは饒舌に活き活き語った。
「……というわけで、第二巻、第三巻も」
「いらないわよ」
 呆れ顔というか草臥れた様子で、アーリーは言う。
「あなたと会うのも、これで最後だし。ここに残されている少ない書物じゃ、あなたの知識欲は満たされないんじゃない? 海の上に行けるといいわね。もしかしたらあと20年生きられるかもしれないし」
 やがて世界に滅びが訪れる。
 アーリーはいつもの冷たい笑みをシャンティアに向けた。
「死ぬ気で行く、んですね。どさくさに紛れて、逃げたり、しませんか?」
「逃げないわよ、多分。まあ、逃げて別の場所で自害するのも、悪くないかもしれないわね」
 シャンティアは口を結び、首を左右に振った。
 許さない。
 自分の前から消えるのは、許さない。
 シャンティアの復讐はまだ始まったばかり。
 メイドのミーザ・ルマンダが言っていた、アーリーに生きのびてもらう方法を、考えなければならないという言葉を、その通りだと思った。
 目の前の女性は、自分とは違い、世界が滅んでも生きていけそうだとも感じていた。
 本人がその気にさえなれば。
「無事、帰る効果を、籠めたお守り、作りました」
 シャンティアが差し出したものを見て、アーリーは明らかに嫌そうな顔をした。
 またとっても可愛らしいアクセサリーだ。
「えと……(怨念込めて)集めて固めた水のビーズで飾った物です、その……短時間で消えます……。お守りなので充分? ですよね……可愛く胸に付けて……下さい……」
「嫌よ」
「つけてください」
 じいいっと、シャンティアは付き添いの騎士にも目で訴える。
「お嬢様の言葉に、従うように」
 ため息をつきながら騎士が言い、アーリーは軽く膨れながらそのペンダント状のアクセサリーを首にかけた。
 見かけによらずそのアクセサリーは重くて、アーリーの胸の谷間に食い込み、彼女のふくよかな胸を強調させていた……。
「可愛いです」
 満足げなシャンティアを前に、アーリーは顔を軽く赤らめ、苦々しい顔をしていた。
 出かける直前に、新しい水のビーズを届けに来ますと約束をして、シャンティアはその日は帰っていった。

「お疲れ様でした。シャンティアお嬢様。どうでした?」
 面会を終えたシャンティアを、ミーザが待っていた。
「アーリーと本の、話をしました……それから、固めた水を持って行ってもらいます。それで、アーリーはやっぱり死ぬ気で……」
 今日の出来事、これからの約束。
 アーリーの様子全てを、シャンティアはミーザに報告したのだった。


第4章 炎の胎動

 神殿の広間に、神殿調査に協力した者が集まった。
 解読に当たったマーガレットとサーナが、それぞれ得た情報を話していく――。

「まずは、初代神殿長――水の魔力の継承者の一族である、ウォテュラ王国の王家が把握していた歴史について、です」
 マーガレットが文脈や同じ言葉を探しだし、推察し、サーナと共に書き出したノートを見ながら、話していく。
「世界の魔力を安定させるには、それぞれの魔力が集まる場所で、属性の継承者と4属性の特殊な魔法鉱石から作りだした、3つの神器と1つの聖石による調整が必要でした。
 しかし、3つの神器は遥か昔、風の継承者の一族によって持ち去られてしまいました。
 それにより、他の属性の継承者の一族は、それぞれの魔力を鎮めるために、中和作用がある継承者の身をもちいるより他なく犠牲を強いられてきたのです」
「続いて、曽祖父様の言葉」
 サーナが悲しい目で、言葉を詰まらせながら続ける。
「火の特殊な魔法鉱石から作られた聖石は、火の継承者の一族が預かっていたが、長きにわたり、火の継承者の一族の所在は不明となっていた。
 水の継承者の一族たる王国の王家は、長い探索の末、火の一族を見つけ出し、管理下に置くことに成功した。
 そして火の地での実験により、魔力の調整を行わなかった場合、世界的な危機が訪れることが実証された。
 この巨大な力を制し、我が王国のものとするなれば、世界は安定し、恒久的な平和が訪れるだろう。
 この神殿による実験で、より詳しいデータを採取してく」
「火の地の実験とは、100年前にこの地と火の継承者の一族が滅んだという、火山噴火のことです」
 マーガレットは感情を見せず、事務的に補足した。
「継承者……?」
 イリスには良く分からない話だった。リックは何か知っているのだろうかと、彼を見ると、リックはサーナと同じような悲しそうな目をしていた。
 イリスの視線に気づくと、リックはイリスの手を握ってきた。
「火の一族が預かっていた聖石は、どうなったのですか?」
 硬い表情でナディアが尋ね、マーガレットとサーナが答える。
「聖石は魔法具の一部として、水の障壁維持のために使われています」
「神殿が出来た頃は、聖石を使う専用の部屋があったらしくて、そこから火山にエネルギーが送られていたみたい。
 魔法具が完成してからは、地上から水の魔力で火山を抑えていたの」
「あっ」
 イリスが声を上げた。
「多分あの部屋じゃないかな。倉庫の下にあった」
「そうだな。地下倉庫もエネルギーの通り道だったのかもしれない」
 思い浮かべながらナイトが言った。
 ウィリアムから聞いた話では、火山方向に続く洞窟は神殿の地下倉庫と繋がっているそうだ。
「それから……」
 マーガレットは別のノートを開く。
 これは、ナイトがウィリアムを通し、レイザから預かった初代神殿長の日誌1冊目の翻訳版だ。
「かつては、その部屋に結界を張り、結界内にいる人物の生命力を聖石でエネルギーに換えて、火山に流し込んでいたそうです。
 だけれど、火山に集まる魔力は増え続け、抑え続けるにはより多くの者の生命力が必要となっていきました。部屋だけではなく、神殿全体も結界を張れる仕組みになっているそうです」
 生命力は、術者により結界内にいる者から等しく集めて送られる。
 また実験によると聖石に触れて、直接生命力を注げば、エネルギーに意思を乗せる事が出来るとのことだ。
 生命力は誰でも注げるが、聖石をもちいて力を送る事が出来るのは、特殊な魔力を持つ継承者の一族だけ……この中ではサーナだけ。
 そして真の力を引き出せるのは、体に証のある継承者のみとも記されていた。
「火山を長期間抑えることなんて、マテオ・テーペ中の人々の生命力を集めてもできないけど、火山を鎮めに向かう人々にエネルギーを注ぐことや、僅かな間火山の力を抑制することくらいなら、できるかも……」
 サーナがそう言った途端、前神殿長に伝えていた使用人たちが「私達にやらせてください」と立ち上がった。
「私達の命を、使ってください。魔力も少なく、生き残っても先行短い私達です。旦那様たちと共に命を賭せなかったことが、助かってしまったことを、とても心苦しく思いながら、この2年半の間、生きてきました」
「箱船出航後、水の障壁は大幅に狭まります。水も空気も食料も足りなくなるでしょう。若い子達に全て使ってもらいたい!」
「火山に向かう若者が死ぬようなことがあってはならない。彼等は未来の為になくてはならない存在。命を賭すのは私達年配者の役目だ」
 そんな言葉、想いが、次々に使用人たちの口からあふれ出た。
 神殿には日々、多くの同志が祈りに訪れているという。その人々もきっと、同じことを望むだろうと、使用人たちは言った。
「……町の人たちは、何も知らないまま、守られているだけでいいの?
 一時的に、より多くの命を守れればそれでいいの?」
「箱船の目的は、恐らく、移住先を探すことではないのです。狭くなった世界で、増える死者を弔いながら、私たちは今後も救いを求めて長い時を耐え、待ち続けるのです」
 苦しげにナディアがそう漏らした。
「水の障壁は水の魔力で張られています。聖石を取り外しても少しの間でしたら、魔術師たちの魔力で補えるでしょう。
 ただ、体力を捧げる結界を水の神殿全体に張るのでしたら、障壁維持に当たっている魔術師たちも影響を受けます。魔術師にもしものことがあれば、障壁が維持できなくなります」
 だから、水の神殿全体に結界を張ることは避けてほしいと、ナディアは辛そうに言った。
「私は……意志ある人全てに、助けてもらいたい。町の人に、貴族の皆に、マテオ・テーペ中の人々に、話したいです。命の燃やし方を選ぶ権利は、誰にだってあるんじゃないですか? 言わせてください」
 サーナは、ナイトと伯爵の直属の青年騎士に頭を下げた。
「それは許可できない」
 即答したのは、青年騎士だった。
「だが、自分も民の為に命を捨てる覚悟はある。支援の為に必要ならば生命力全てを捧げることも厭わない」
 青年騎士はっきりとそう言った。
「落ち着きなさい。多くの方々がそれを望んでも、結界中に入りきれません。妨げになるだけです」
 マーガレットは厳しい口調で、サーナを嗜める。
 ナイトはすぐには答えられなかった。
 今、ここにいるメンバーだけで、聖石によるサポートを行ったのなら……体力のないものは命を落とすだろう。
*  *  *


 虚ろな表情の騎士を伴い訪れた少女に、女性が暗い表情で微笑みかけた。
「ねえ、私生きてもいいわ、条件次第では……レイザ・インダー、彼を生かすことできないかしら? 彼が死ななければ、私の子が痣を持って生まれれ来ることはないし、あなた達の国で受け入れてもらえるのなら、それも良いかなと思うのよ」
「彼はだめよ、継承者の男は生かしてはおけない。……あの人のこと、嫌いじゃないんだけどね」
「どうして?」
「“女は、命と力を捧げて、魔力を鎮める。
 男は、命と魔力を取り込み、制圧して王となる”
 私達地の継承者――大地の神族に伝わる口伝の一つ。
 私の国にも、徴を持つ継承者の男性、お兄様がいる。共に生まれた双子のお姉様は魔力を鎮めるために、既に亡くなってしまったけれど……。
 準備が整えば、お兄様は必ず成し遂げる。全ての魔力を制して、帝国が世界を統一するのよ。
 世界に王者は複数いらない。1人の王者――神のもと、統制されるべき。
 だから、男はいらない。あなたは痣のある子を産んでも大丈夫、20年後にはお兄様が助けてくださるはずだから」
「そう……わかったわ」
「私、火山に行ってもいいわ。火をこれ以上暴走させたら、世界の状態はもっと悪化してしまう。
 家族と国と世界の為に、身を捧げる覚悟、できている。私生児だけど……私だって、神の一族だもの」
*  *  *


 部屋に戻ろうとしたウィリアムは、廊下で部屋に向かおうとしていたアリス・ディーダムと会い、そのまま一緒に向うことになった。
 アリスは石板の翻訳の手伝いに来ていると、アーリーから聞いていた。翻訳もほぼ終わっているため、手伝いは今回で最後になるだろう。
 騎士に鍵を開けてもらい、部屋に入ると……部屋は真っ暗だった。
「アーリー、寝てるのか?」
 入口近くにランプに火を点すと、ソファーに座るアーリーの姿が見えた。
「……どうかしたか、相談なら聞くが大丈夫か?」
 近づいて、ウィリアムはアーリーの隣に腰かけて、心配そうに彼女を見詰めた。
 アリスはドアの前で2人を見守る。邪魔なようなら、出直そうと思いながら。
「ウィル、私ね。火山で全力を賭すわ。そして自由になり、箱船にも乗りたい」
 アーリーはくすりと微笑んだ。
 いつものような、冷い笑み。だけれど……目には暗い輝きがあった。
「生きたい理由が出来たの。夢が出来た。叶わなかった時は、舌を噛み切ってでも自決するわ」
 それだけ言うと、アーリーは目を伏せて、口を閉ざした。口元に冷たい笑みをたたえながら。

 私たちは、もう誰の甘言にも乗らない。
 不要な者は淘汰され、世界は統一されるべき。
 水でも地でもなく、火の一族の下に。


個別リアクション
『燃え始めた炎』 『嘘でも』 ■情況・連絡事項 予告通り、次回は火山深部への突入が行われます。 こちらの作戦ですが、火山が限界に達する前に鎮めることを目的としており、限界が近づくと地震は勿論、マテオ・テーペ内外に様々な影響が出ます。 鎮めに行くのが遅くなれば被害が増しますため、迅速な決行が望まれます。 火山方面 今回メンバーが確定できませんでしたため、仮定の作戦を書かせていただきます。 下記に名前がないかたも、A地点までのサポートはどなたでも可能です(12歳以下の子供除く)。
※神殿からのサポートがあった場合、回復担当の地属性の方は回復以外の行動に回る事が可能となります。

 

 

 

 

 

■道中援護(A地点)
エイディン・バルドバル
トゥーニャさんを背負って、騎士団員と共に可能な範囲まで先導。

■後方支援(B地点)
アウロラ・メルクリアス(服用魔法薬:熱対策or魔力増幅薬)
深部及び接近メンバーを後方からサポート。

風魔術師警備隊隊員
この地点までのガス対策担当。

■火口接近(C地点)
ピア・グレイアム(服用魔法薬:熱対策or体力増幅薬)
この地点でのトゥーニャさんの体力回復担当。

トゥーニャ・ルムナ(服用魔法薬:熱対策or体力増幅薬)
ガス対策担当。深部に向かうメンバーに向けて広範囲。

ロスティン・マイカン(服用魔法薬:魔力増幅薬or体力増幅薬)
自分の周りの温度を下げ続け、接近者を護る。
ロスティンさんが同行しない場合、NPCのリックが駆り出されます。

ミーザ・ルマンダ(服用魔法薬:熱対策)
ロスティンさん、ピアさんの体力回復担当。
ロスティンさんが火山対策に不参加の場合は、アーリーに付き添う。

■深部同行(D地点)
ウィリアム(服用魔法薬:強めの魔力増幅薬)
深部メンバーのサポート。帰還の要。

アーリー・オサード(服用魔法薬:体力or魔力増幅薬)
深部同行者を能力で熱から守る。深部では薄着(露出度が高い)になります。

メリッサ・ガードナー(服用魔法薬:体力or魔力増幅薬)
個別ラストの返事が全てYESな場合に限り、完全にレイザのサポートに徹することになります。
(バートの代わりはできません)
その場合、メリッサさんの魔法を受けながら、レイザは自分の能力で深部に入ります。
産みたいを選択する場合は洞窟に入れません。

バート・カスタル(服用魔法薬:強力な魔力増幅薬)
強力な魔力増幅薬と、必要に応じて魔力増幅装置(魔法具)を発動させて、深部までの道を作る。

レイザ・インダー(魔法薬の服用なし)
火山を鎮める役目。深部では薄着(露出度が高い)になります。

神殿方面
聖石を用いたサポートを行います。
特に提案がなければ、前回神殿調査に参加された方各々が秘密裏に知り合いに声をかけて仲間を集めます。
集められる人数は自身の信頼の値÷2人まで(小数点以下斬り捨て。1未満の場合は1人)とします。呼ぶことが出来るのはPCか無名NPC(標準体力)です。
止められるアクションがなければ、高齢者の使用人たちは作戦に参加します。彼等の体力値は6、7程度です。

生命力は結界内にいる者から等しく集められますが、その量は術者(サーナ)がコントロールできます。
サーナは精神的にかなり不安定なので、助言やサポートがないと暴走しかねません。
聖石に触れて、直接生命力を注ぐと、エネルギーに意思を乗せて対象(洞窟内~火山にいる人物)に想いとエネルギーを届けることができます。
コントロールするのは、サーナですので、想いの内容によっては相手に届けないかと思います。
届けられるのは感情です。指示が出来たり会話が出来たりはしません。

※前回神殿調査に関わった方以外で、作戦に参加したい方は、前回神殿調査に関わったPCに紹介をしていただくことでご参加いただけます。
その際には、必ず双方のアクション欄に双方のお名前、もしくはグループ名をご記入ください。
紹介する側の信頼の値により呼べる人数に制限がありますので、ご注意ください。

魔力制御装置使用者募集
とある技術者により、周辺の魔法エネルギーを集めて、制御、利用する装置の開発が進められています。
こちらの使用者として立候補したい方は、私信欄の最初に「立候補」とご記入ください。選ばれるのは1人だけです。
魔法能力が高くないと扱えず、体力がないと制御が難しい装置となります。
第7回で深部への道を開いた後、マテオ・テーペ内部も影響を受けます。
その際や箱船出航時の空間防衛の為に第8回時に使用される予定です。

箱船乗務員募集
箱船計画はグランドの話となりますが、乗務員への立候補はサイド参加者も出来ます。
応募する方はアクション冒頭に「◎」印を入れておいてください。
末尾に記入されているとカウントされませんので、お気を付けください。
応募しない方は、何も記入しなくてかまいません。

個別連絡
メリッサ・ガードナーさん
恐らく火山同行を選択されると思いますが、懐妊を目指される場合はPCからの紹介なしで神殿の作戦にご参加いただけます。
メリッサさんのご選択が全体の作戦に関わってきますため、お手数ですが行動が決まりましたら、掲示板で宣言をお願いいたします。

ロスティン・マイカンさん
お手数ですが、ミーザの誘いを受けて火山対策に参加するか、その他の行動をとるか、決まり次第掲示板で宣言をお願いいたします。

ナイト・ゲイルさん
特に指示がなければ、囚人たちは前回と同じ作業に従事します。
指示内容を変える事も可能です。今回は少々危険が伴う作戦も可となります。
火山鎮静方面に協力させる場合、A地点まで行けます。
聖石関係の協力をさせることも可能です。体力は並です。
彼等のやる気は、エリザベートさん、ファルさんの行動に影響されそうです。

ラトヴィッジ・オールウィンさん
完全に回復しました。
現在処分保留状態であり、公国騎士としての権限は失っています。

リベル・オウスさん
残った魔法鉱石で作った魔法薬を配布することができます。
数は5つ。以下のいずれかの薬が作れます。
魔力増幅、体力増強、魔力回復、体力回復
特定のPCに渡す場合は、双方のアクション欄に名前をお書きください。

トゥーニャ・ルムナさん
脱走事件のことを持ち出さなければ、騎士団やバートは普通にトゥーニャさんに友好的です。
囚人たちが作戦に絡む可能性がある&思うところはあるかもしれませんが、重要な役割を担いますため、作戦に集中していただけましたら幸いです。

ウィリアムさん
火山深部では、上記の作戦の場合、アーリーがウィリアムさんと手を繋ぎ、ウィリアムさんがバートと手を繋いで進むことになるかと思います。(バートが先頭)
アーリーがレイザも守る場合は、アーリーとレイザが腕を組み、もう片方の手をウィリアムさんと繋ぎ、ウィリアムさんがバートと手を繋ぐ、となると思いますが、手ではなくても構いません。深部ではアーリーから離れる、もしくはアーリーが能力を使えない状態になると他の方も即死です。

エイディン・バルドバルさん
A地点までのサポートを求められいますが、メイン行動はその後の行動(神殿に駆け付けるなどでも)でも構いません。
メイン行動を他の行動とする場合はA地点までのサポートについては、A地点までサポートするとだけお書きください。サポートについての詳細が書かれていた場合は、ダブルアクションとなります。

シャンティア・グティスマーレさん
魔法の効果は行使している間のみとなります(魔力が途切れれば消えます)。ただ、魔法鉱石を用いた魔法はその限りではないため、シャンティアさんが贈ったアイテムは部屋の照明具の魔法鉱石をもちいたものとお考えください。


■第7回選択肢
・火山対策に協力、同行
・魔法鉱石採掘(地震等で難航します)
・魔力制御訓練に参加、指導(レイザは指導員から外れています)
・神殿からサポート
・~に聞きたい事がある!(サイドのストーリーに関係のある人物、話題限定)
・その他サイドのストーリーに関係のある行動


担当させていただきました、川岸です。
早くも6回が終了し、残すところあと2回となりました……。
あと2回思い残すことがないよう、力いっぱい頑張ってください!

説明をいろいろ書きましたが、リアクションや説明に載っていても、PCが知り得ないことを知っているとして行動することは出来ません。

ところで、バートがですね。
ここ(火山)で死亡予定は当初全くなかったのですが、生還できる理由が見当たらなくなっています。
これはもうPLの皆様に任せるしかないなと思っています。
上記の作戦はレイザとバート犠牲前提で、障壁内への被害を最小限にとどめるための作戦になっています。皆様のアイディア、話し合いで変えていただいて構いません。

ミーザは自分の国が一番ですが、国に害がなければ親しくなった人のことは、普通に守りたいと思うんじゃないかな。
ただ、自国にとって悪影響な存在(レイザや騎士等)には、非情に徹するのでは。

NPCの体格ですが、バートは高身長で筋肉質、体重も重いです。レイザは標準よりやや高い、重い程度。
ミーザは標準身長、普通の女の子らしい体型。アーリーは標準よりやや高く、スタイルが良いです。
継承者の一族は、基本的には一般人より魔力、身体能力共に優れています。

……さて。
最終回は、魔力制御装置による、防衛が行われると思います。
それって何? という方は、アトラ・ハシスの最後の方をちら読みしてみてください。

第7回~8回の流れとしては、
火山へ出発→火口への道を開く(魔力が流れ込み、マテオ・テーペ内に影響が及ぶ)→聖石による援護→火山突入→障壁内の防衛&火山を鎮める→箱船出航
となると思います。

第7回のメインシナリオ参加チケットの販売は9月23日から10月1日を予定しております。
アクションの締切は10月2日の予定です。
詳しい日程につきましては、公式サイトお知らせ(ツイッター)や、メルマガでご確認くださいませ。

それでは、皆様のアクションを緊張しつつ楽しみにお待ちしております。